高耐圧パワーデバイスの測定技術:最新ノウハウを徹底解説!(1/5 ページ)
電動自動車や太陽光発電システムなど、高電圧での電力変換を要する機器の市場が拡大している。そうした機器で設計上の重要な構成要素となるのが高耐圧のパワーデバイスである。そして、最先端のパワーデバイスでは、高耐圧/低オン抵抗という特徴を持つ基本性能を評価することが非常に重要な作業となってきている。そこで本稿では、パワーデバイスの測定を円滑に行うためのノウハウを詳細に解説する。
耐圧は動作電圧より高い
環境への配慮、省エネの重要性に対する関心の高まりを受け、エレクトロニクスの世界でも、そうしたテーマに即した製品開発に注目が集まっている。中でも、ハイブリッド車/電気自動車、太陽光/風力発電システムなど、電力変換を行うような製品の開発では、その変換効率を向上させることが可能なパワーデバイスが求められている。
これらの製品では、電力伝送を効率良く行うために、送電電圧の値は高く設定される。なぜなら、電圧を高くして電流を小さくすることにより、電力の伝送経路に存在する抵抗成分(残留抵抗)による損失を減らし、効率良く電力を送ることができるからだ。そのためには、高耐圧のパワーデバイスが必要になる。
電力コンバータ/インバータなどのスイッチング用途でパワーデバイスを用いる場合には、その動作時の信頼性を確保するために、動作電圧の2〜3倍の耐圧を確保するのが一般的である。
例えば、ハイブリッド車のハイブリッドシステムの動作電圧は600Vに達する。このとき、電力変換を行うインバータに用いるパワーデバイスには、1200V〜2000Vの耐圧が必要になる。ほかにも、動作電圧が200Vの空調システムや産業機器用インバータでは600V、3.3kVの電車では6kV、発送配電では10kVもの耐圧を持つパワーデバイスが必要とされている。
耐圧とオン抵抗
高耐圧パワーデバイスの主な用途は、電力コンバータ/インバータにおけるスイッチングである。高い効率と信頼性を持ったスイッチングを行う上では、パワーデバイスのオンとオフの状態における特性が鍵になる。
スイッチング素子を高効率化するためには、導通損失とトランジェント損失を抑えなければならない。導通損失とは、スイッチがオンの状態における損失のことであり、トランジェント損失とは、スイッチがオンからオフ、またはオフからオンに遷移する際に生じる損失のことである。導通損失を抑えるには、デバイスのオン抵抗を小さくすることが必要になる。しかし、パワーデバイスにおいて、耐圧とオン抵抗はトレードオフの関係にある。
図1に各種パワーデバイスの耐圧とオン抵抗の関係を示した。このように、耐圧を高めることとオン抵抗を低減することは相反する関係にある。例えば、パワーMOSFETなどのユニポーラデバイスでは、デバイスを並列化することにより、高耐圧かつ低オン抵抗のデバイスを実現できる。ただし、この手法では、トランジェント損失が増えてしまうため、バランスを取る必要がある。
現在、高耐圧パワーデバイスの主流となっているのが、ユニポーラデバイスよりも高い耐圧を実現できるバイポーラタイプのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。また、最近ではシリコン半導体よりもエネルギーギャップが大きい、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)などのワイドバンドギャップ半導体を用いたパワーデバイスの研究開発が盛んになってきた。これらのワイドバンドギャップ半導体は、シリコン半導体よりも高温での動作が可能であるとともに、より高耐圧で低オン抵抗のパワーデバイスを実現できると言われている。こうしたことから、近い将来、高耐圧パワーデバイスの主流が、新しい材料を用いたものに移行するとの予測がなされている。
SiCやGaNのような新しい材料を用いたパワーデバイスの研究開発の現場では、これまで以上に、高電圧におけるリーク電流や、大電流が流れる際のオン抵抗などを正しく測定できるようにしなければならない。
信号源/測定器の選択
パワーデバイスとして使用されるトランジスタやダイオードの評価では、スイッチングにおけるオン、オフそれぞれの領域での測定が中心になる。このような評価を行うには、どのような測定器が適しているのだろうか。以下、パワーデバイスとして、主にMOSFETを例にとって説明を進めることにする。
図2に示したのは、パワーMOSFETの静特性である。オン時の性能評価としては低抵抗領域を、オフ時の性能評価としては高抵抗領域を測定することとなる。オン時における数mΩといった低抵抗領域の測定では、電圧源を信号源とすると、わずか数mVの電圧の変化に対して電流が数Aも変化してしまう。このような場合には、電流源を信号源とし、測定に電圧計を用いることにより高感度な測定を行うとよい(図3)。反対に、オフ時の高抵抗領域の測定では、電圧源を信号源とし、測定に電流計を用いるほうがよい(図4)。オン時の低抵抗領域では電圧感度が重要であり、オフ時の高抵抗領域では電流感度が重要なのである。
こういった測定を実現する方法としては、次の3つが挙げられる。まず、信号源に直流電源を用い、電圧計/電流計にはDMM(デジタルマルチメーター)を用いて、測定系を構成する方法である。一般的に電圧計、電流計は信号源より高確度、高分解能なので、感度が必要なほうに電圧計、電流計を選択する。2つ目は、カーブトレーサを使用する方法である。そして3つ目の方法は、SMU(ソースモニタユニット)を使用するというものだ。SMUとは、信号源と測定計の両方の機能を持ち、電圧源と電流計を備えたモードと電流源と電圧計を備えたモードとを自由に切り替えることができる装置のことである(図5)。SMUは、確度/感度にも優れており、分解能は百万分の1に達する。最新のSMUであれば、設定の分解能も百万分の1を実現しており、高感度の電圧源、電流源として使用できる。
また、パワーMOSFETの評価では、飽和領域とブレークダウン領域(図2の青で示した領域)に関する測定も重要である。これらの領域では、先ほどとは逆に大電流印加(オン)のときには信号源を電圧源に、高電圧印加(オフ)のときには信号源を電流源としたほうが測定に有利な場面もある。SMUでは、出力モードを使い分けることにより、このようなさまざまな測定要件に対応することが可能である。
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