検索
特集

無線機能を機器に組み込む乱立する規格への最適な対処法とは?(2/3 ページ)

WiMAX、ZigBee、LTEなど、無線通信の世界には、新たな規格が続々と登場している。その一方で、ワイヤレス機器では古い規格も比較的長く使われる傾向にある。そのため、複数の規格をサポートすることや、規格の変更に伴うアップグレードを容易に実現する実装手法が求められている。では、こうした要求に応えるために、実際にはどのような取り組みが行われているのだろうか。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

プラットフォームでの対応

 ここまでに挙げた例にもあるように、プラットフォームでの対応を図るベンダーが増えている。スイスST-Ericsson社も、プラットフォームを用いた手法によって、ユビキタスな接続性を求める消費者のニーズに応えようとしている。同社の2G/EDGE(Enhanced Data GSM Environment)/TD-SCDMA(Time Division Synchronous CDMA)接続製品担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネジャを務めるThierry Tingaud氏によると、「消費者にとって、携帯端末は、GPSやWi-Fiといった複数のワイヤレス機能を1つで提供するものになりつつある」という。同社は、スマートホン、高機能電話機、簡素な携帯電話機向けの各種プラットフォームと、ノート型パソコンが内蔵するワイヤレスモデムなどの接続機器用プラットフォームを提供している。

 ST-Ericsson社は2009年12月、フィンランドNokia社との長期的な提携の一環として、TD-SCDMA技術を共同で開発中であると発表した。ST-Ericsson社とNokia社は、同技術を中国で展開する。Nokia社は、Symbian OSをベースとする同社のTD-SCDMAデバイスポートフォリオを提供している。提携の一環として、このポートフォリオのチップセットを、ST-Ericsson社が主要サプライヤとして供給する予定である。Nokia社は、「この提携により、中国のモバイルシステム市場における両社の主導的な地位がさらに強化されることになる」と述べている。Nokia社は2009年10月、同社初のSymbian OSベースTD-SCDMA携帯電話機「Nokia 6788」をリリースし、北京にTD-SCDMA研究開発専用チームを新たに設置すると発表した。一方のST-Ericsson社については、中国の子会社T3G Technology社が、6年以上にわたってTD-SCDMA技術およびデバイスの開発に従事している。

ソフトウエアの重要性が高まる

 米Broadcom社でワイヤレス接続事業のWPAN(Wireless Personal Area Network)担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネジャを務めるCraig Ochikubo氏は、「当社は、パソコンや携帯端末など民生機器向けのさまざまなプラットフォームに、多種多様な技術を組み合わせて統合するという事業に取り組んでいる」と述べる。Ochikubo氏によると、最も力を入れているのは、シームレスな接続性を提供するためのソフトウエアドライバとアプリケーションであるという。「もはやチップを製造するだけでは十分ではない。すべてをソフトウエアで統合し、かつハードウエアで機能を補完することが必要になっている」と同氏は付け加える。

 Ochikubo氏はソフトウエアの課題について、「われわれは、Bluetoothチップをパソコンに搭載することも、類似のチップを携帯端末に搭載することもできる。しかし、両者に搭載するソフトウエアはまったく異なるものになる」と説明する。パソコン市場に限っても、Broadcom社は、米Microsoft社の「Windows XP」、「Windows Vista」、「Windows 7」向けに異なるソフトウエアパッケージを提供している。携帯端末市場を対象にするには、さらにモバイルOS向けのパッケージが必要になる。Broadcom社は、一般的なモバイルOSがサポートしていないオーディオストリーミングや遠隔制御などの機能向けにも、ソフトウエアサポートを提供している。Ochikubo氏は、「顧客は、われわれに対し、まだ初期段階にある『Android』を搭載する電話機を開発したいのだが、その際、最先端の機能も実装してほしいと要求する。そのような要求により、われわれが提供しなければならない製品の範囲は常に拡大し続ける」と述べている。

 Ochikubo氏は、「当社が提供するソフトウエアは、OSや、エンドユーザーに提供するソフトウエアとはまったく異なる」と述べる。Broadcom社は、パソコン市場においては、ユーザーインターフェースを含めてあらゆるソフトウエアを供給している。例えば、Bluetoothに関しても、Windowsが提供する以上の機能をサポートする。同様に、同社が提供する、「Windows Mobile」向けのユーザーインターフェースは、Microsoft社が提供するそれとはまったく異なっている。ただ、高機能電話機については、韓国Samsung Electronics社や同LG Electronics社などのベンダーが、ユーザーインターフェースにおける各社独自の外観と使用感(ルック&フィール)を維持したいと考える傾向がある。そのため、この点については、Broadcom社はAPI(Application Programming Interface)を提供し、ステレオオーディオストリーミングやデータ同期などの機能を、顧客が容易に実装できるようにすることで対応している。

Bluetoothへの対応例

 Broadcom社は、Bluetooth 3.0に対応した製品開発にも取り組んでいる。Bluetooth 3.0により、IEEE 802.11の物理層を使用して、Bluetooth環境におけるWi-Fi速度のデータ転送を提供することが可能となる。Bluetooth 3.0は、音楽プレーヤや携帯電話機とパソコンとの間での音楽ライブラリのバルク同期や、プリンタへの写真データのワイヤレス転送、カメラや携帯電話機からパソコンやテレビへのビデオファイルの送信をサポートする。

 「Wi-Fiを中心とする設計を代替するものとしては、Wi-Fi Directがある」とOchikubo氏は述べる。Wi-Fi Directは、従来型のホームネットワーク、オフィスネットワーク、ホットスポットネットワークなどを介することなく、Wi-Fi機器間の接続とデータ共有を可能にする。Broadcom社が最近発表したソフトウエアプラットフォーム「InConcert Maestro」は、そうした作業を簡素化するという。

 Bluetoothの利用に関する認証を行う団体であるBluetooth SIG(Special Interest Group)は、Bluetooth low energy(低エネルギーBluetooth)、すなわちBluetooth 4.0や、それに基づく低消費電力アプリケーションの普及にも取り組んでいる。Bluetooth low energyは、健康管理、スポーツ、フィットネス、セキュリティ、ホームエンターテインメントなどの市場をターゲットとする予定である。

 ST-Ericsson社は2009年12月、Bluetooth low energy技術を採用したチップ「CG2900」を発表した。CG2900により、消費者は携帯電話を用いて、Bluetooth low energyセンサーからの情報を収集/表示し、インターネットに接続して、遠隔での健康管理やフィットネス監視などのアプリケーションを利用することができる。同社によると、「CG2900を使用することで、携帯電話機を、ボタン型電池で駆動する機器で構成される多様なエコシステムのハブにすることができる」という。具体的には、腕時計をはじめ、医療用やスポーツ用のモニター、電池残量モニター、近接センサー、温度計、圧力計などが携帯電話機を中心としてつながるということである。また、携帯電話機を、ゲーム機や家庭用電気製品のコントローラとして使用することも可能になる。

複数の規格のサポート

 単一の製品において、複数の通信規格をサポートするための効果的な方法の1つは、プラットフォームやリファレンスデザインを活用することである。

 例えば、米QUALCOMM社の携帯端末向けプラットフォーム「Snapdragon」は、3Gモバイルブロードバンド、Wi-Fi、Bluetooth、GPSをサポートしている。2009年6月には、Snapdragonファミリの第2世代品としてチップセット「QSD8650A」を発表している。第1世代品は65nmプロセスで製造していたが、QSD8650Aでは45nmプロセスを採用した。同チップセットは、動作周波数が1.3GHzのARMコアベースのマイコン、166MHzの内部バス、600MHzのDSP、電力効率の高いスタンドアロンの2Dグラフィックスアクセラレータ、強化を図った3Dグラフィックスコアなどが含まれている。パッケージのサイズは、第1世代品と変わらず15mm×15mmである。QSD8650Aは、1080ピクセル(第1世代は720ピクセル)という高解像度のビデオを録画/再生する機能を搭載しているほか、「Adobe Flash」のサポート、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)や3G CDMAモバイルブロードバンドの接続オプションを提供している。また、Wi-Fi、Bluetooth、GPS、12メガピクセルのカメラ、モバイルブロードキャストテレビもサポートしている。第1世代のチップセットの性能が2200DMIPS(Dhrystone MIPS)、消費電力が500mWであったのに対し、第2世代のチップセットの性能は2800DMIPS以上で、消費電力はわずか350mW。スタンバイ時の消費電力は10mW未満となっている。

写真1 Lenovo社のスマートブック「Skylight」
写真1 Lenovo社のスマートブック「Skylight」 QUALCOMM社の「Snapdragon」を搭載している。

 QUALCOMM社によると、台湾Acer社、同HTC社、英Sony Ericsson Mobile Communications社、東芝などから、第1世代のSnapdragonを搭載した携帯電話機が、すでに6種類以上も発表されている。そのほかにも、2010年は多くのSnapdragon搭載スマートホンやスマートブックが市場に登場するとQUALCOMM社は見込んでいる。例えば、米Lenovo社は2010年1月のCESにおいて、Snapdragonを用いたスマートブック「Lenovo Skylight」を発表した(写真1)。プロセッサはARMベースのものである。Lenovo Skylightは、米AT&T社の米国内における3Gモバイルブロードバンドサービスに接続できる。またQUALCOMM社は、Snapdragonを搭載したAndroidベースのスマートブックを、米HP社と共同開発中であることもCESで明らかにした。

サプライヤの選択

 Infineon社のRF担当シニアマーケティングマネジャを務めるClay Melugin氏は、「製品にワイヤレス機能を追加するコストを過小評価する人が多い。彼らは、チップセットの価格はいくらかと質問してくる。しかし、最初にかかるチップセットのコストは、ワイヤレス製品を市場に投入するまでにかかるコストのほんの一部にすぎない」とMelugin氏は強調する。

 チップセットを選択したら、リファレンスデザインのライセンス料を支払い、製品開発と認証プロセスに自社の時間と労力を費やさなければならない。「製品を早く市場に投入したい場合や、(特に携帯電話機に)ワイヤレス機能を搭載するのにかかるコストを抑えたい場合には、モジュールを利用するのが経済的にも非常に良い選択肢となる。年間2万台以上を製造するのであれば、Wi-FiとBluetoothの組み込みを検討することができるが、携帯電話機の場合は、製造数が年間20万台以上でなければ採算が取れない」とMelugin氏は述べる。ただ、「製造数にかかわらず、コストやサイズ、消費電力、性能という基本的な要素を比較検討し、チップやモジュールを選択する必要がある」と同氏は付け加える。

 Melugin氏は、十分に数が見込める製品にチップセットを組み込みたい場合は、ベースバンドICやRF IC、プロトコルスタックに加え、事業者ネットワークテストまでの全テスト/認証が完了しているリファレンスデザインを搭載したプラットフォームを選択することを推奨している。そうすれば、製品を市場に投入する際に生じる多くの問題を回避することができるからだ。「製品に無線機能を組み込みたいと考える企業は多数存在する。しかし、概してそうした企業は、組み込み設計を認証プロセスに合格させるまでのコストを過小評価している」と同氏は述べる。

 チップを選定する場合には、候補となるチップベンダーのロードマップを確認し、新しい規格に対応した製品のリリース予定を調査すべきである。「先の計画を立てていない企業を選択すべきではない」とMelugin氏は述べる。また、同氏は「プラットフォームが次の世代へと移行する際に、ベンダーがソフトウエアの再利用をサポートするかどうかも確認する必要がある」と付け加える。「次の世代のチップセットへと移行する際に、できるならばコードを書き直すことはしたくない。チップセットに対する汎用インターフェースを用意することで、新しいチップセットやプラットフォームがリリースされる際にそれらへのポーティングを容易にし、移行時の安定化を図ることのできるサプライヤを探すとよい」と同氏は忠告する。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る