FPGA生き残りの策:高速化が進むネットワーク分野に見る(1/2 ページ)
ちょうど、ドットコムバブルの時代にネットワーク機器への搭載が盛んになったFPGA。だが、このバブルがはじけ、40Gbps、100Gbpsといった高速のイーサーネット規格などが登場するに連れ、設計者らがFPGAに求める役割は変わってきた。FPGAベンダーやSoCベンダー、そして機器設計者らは、ネットワーク分野におけるFPGAの立ち位置をどのように考えているのだろうか。
原点はドットコムバブル
FPGAとネットワーク機器業界の間には、ドットコムバブルの時代から長く続く、密接な関係がある。好景気に沸いていた当時、ネットワーク機器(ハードウエア)のベンダーは、市場に新しい製品を迅速に投入しなければならないという多大な重圧を抱えていた。比較的低速なトランシーバとケーブル配線が原因で、ネットワークコアの外側のワイヤースピードが抑えられている中、ベンダーの間では、他社よりも先に新たな機能を開発しようと、激しい競争が繰り広げられていた。当時は、価格にはほとんど関係なく、新機能を搭載して最初に市場に提供される製品に注文が殺到した。スイッチやルーターのコストがとてつもなく高くなったとしても、機器ベンダーは、そのコストをネットワーク新興企業に負担させることができた。また、そうした新興企業には、2000万ドル程度の投資はいつでも行える投資資本家がついていた。あるいは、他社に遅れをとってはならないと必死になっているサービスプロバイダに負担させることもできたのである。
このような状況は、FPGAベンダーにとっては好都合であった。FPGAは設計要件の急速な変化に対応可能で、ある程度の動作速度を実現することができ、さらにそれに依存して消費電力や価格が大きく増加することのないデバイスであるからだ。各FPGAベンダーは、自社の最大規模の製品をネットワーク機器向けに販売するようになった。こうして、価格が1000米ドル以上もし、それまではプロトタイプや一度限りのプロジェクト向けに、少数しか使用されることのなかったFPGA製品が、ある程度の生産量を求められるネットワーク機器向けに提供されるようになっていった。
このような流れにより、FPGA業界は急速に変化を遂げる。同業界の主要企業は大きく成長し、社内の研究開発に多大な投資を行うようになった。それまで新しいプロセス技術の採用には消極的だった米Altera社や米Xilinx社が、新しいプロセスノードが登場するたびに、それを最初に採用するファブレス企業の中に名を連ねるようになる。こうして、FPGAとASICの性能の差は、わずかながら縮まっていく。
スイッチやルーターの設計者がFPGAを使用する方法にも変化が生じた。従来、FPGAはグルーロジックの実装に便利なものとの位置付けにあった。しかし、ドットコムバブル期の多大な重圧の下で、設計者は、デジタル信号処理アルゴリズム、フレーマ、マッパーなど、さらに複雑な機能もFPGAに実装するようになる。この変化を受けて、FPGAベンダーは新しいアプリケーションの要求に対応していくようになった。強力なDSPエンジンでロジックファブリックを構築し、高速シリアルI/O向けのPHY(物理層)やMAC(Media Access Control)のハードウエアをFPGAチップ上に設計し、オンチップメモリー構造を拡大してデータのスループットをさらに向上させた。グルーロジックだけでなく、それ以外の要素もFPGAに実装するようになった顧客に対応し、FPGAベンダーはインターフェース機能の強化にも取り組んだ。
やがて、ドットコムバブルがはじける。ネットワーク機器の需要は急速に減退し、FPGAの注文数も減少した。このような中、今度はネットワーク以外の多様な分野へ市場を求めるFPGAベンダーが増え、研究開発は続いた。その結果、ハイエンドのFPGAは、引き続きスイッチやルーター向けの強力な機能の実装に使用されたが、同時に組み込みコンピューティングや制御アプリケーションでも利用されるケースが増えてきた。
バブル期の再来か
2009年を振り返ると、ネットワーク市場には、上述したのと非常によく似た現象が生じていた。アクセスネットワークの末端から、MAN(Metropolitan Area Network)事業者がトラフィックをコアへと伝送するコンセントレータに至るまで、すべてのレベルにおいて、帯域幅をさらに拡大したり、動画などの新しい負荷をサポートしたり、既存のネットワークからGbE(ギガビットイーサーネット)へと移行しようとしたりする動きが見られたのである。
こうした動向を“バブル”と呼ぶ者はいない。しかし、スイッチやルーターのベンダーは、新世代の機器を、われ先に開発しようと争っているという点では以前と変わらない。現在、問題となっているのは通信速度である。ネットワーク事業者は、40ギガビット/秒(Gbps)の導入を強く求めており、できるだけ早く100Gbpsも実現したいと考えている。キャリアイーサーネット(CE:Carrier Ethernet)ネットワークは、事業者向けのメンテナンス機能やフェールソフト機能を持っていた旧式の同期ネットワークプロトコルからデータを隠蔽して伝送しなければならないので、複雑さはますます増大している。トラフィックの管理やセキュリティの確保といった新しい要求に対しては、より詳細なパケット検査、分類、処理が必要になる。このため、機器設計者は、新世代のネットワーキングICに着目しており、高度なプロセスで新しいSoC(System on Chip)を開発している。そのような中、FPGAに注目する設計者も少なからず存在する。
ドットコムバブルが崩壊してから、ネットワーク機器の開発者は、新機能に対する多大な重圧から解放され、もはやFPGAを用いて迅速に製品を投入する必要はなくなった。FPGAベンダーにとっては、1500米ドルもするチップを購入してくれる顧客を失ったことになる。それでも、FPGAがルーター内から消えることはなかった。やはり、FPGAはルーターに必要な高速トランシーバの実装に適していたからである。また、中程度の速度のトランシーバを実装した小型で低コストのFPGAファミリも登場し始めるようになる。
FPGAは、その柔軟性から、困難な状況に対しては便利な存在である。しかし、ネットワーク機器ベンダーの米Brocade社でシニアディレクタ兼チーフアーキテクトを務めるMartin Skagen氏は、「われわれは、市場投入までの期間を長くとれない場合か、あるいは要件がまだ確定していない機能を実装しなければならない場合にのみFPGAを使用する。要件が安定すれば、ASICで設計を確定する場合が多い」と説明する。
むろん、FPGAベンダーは、こうした現実を認識している。Altera社でシニアコミュニケーションビジネス部門のマネジャを務めるArun Iyengar氏は、「今日、主要な機器メーカーは、FPGAではなくASICを用いている。FPGAは、ASICの機能の変更や、グルーに使用されているだけだ」と述べている。ただし、これはあくまでも現在の話であり、将来的には状況が変わる可能性もある。1つの例として、IP(Internet Protocol)テレビに対応できるだけの帯域幅やトラフィック管理の需要が高まっている。そのため、CE機器の市場には、バブル期をほうふつとさせるような、急速な変化が生じ始めている。
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