米Exatec社とアルバックは2010年7月、東京都内で記者会見を開き、アルバックがExatec社のプラズマコーティング技術を用いて樹脂ガラスの製造装置を事業化することで合意したと発表した(写真1)。Exatec社の技術は、樹脂ガラスの耐傷付き性や耐候性を向上するというもの。アルバックによると、受注があれば即座に装置を製造できる段階にあり、納期は7〜8カ月になるという。
Exatec社は、樹脂ガラスの原材料であるポリカーボネート樹脂大手の米SABIC Inovative Plastics(以下、SABIC IP)社の100%子会社で、プラズマコーティング技術を含めた樹脂ガラスの製造技術を開発している。この技術を用いた樹脂ガラスの用途として想定されているのが、自動車の後部/側面ドアの窓に用いられている無機ガラスの代替である。Exatec社でCEO(最高経営責任者)を務めるDominic McMahon氏は、「自動車のガラスとして、無機ガラスに替えて樹脂ガラスを用いることには、軽量化、デザインの自由度の向上、部品の統合という3つの利点があると考えている」と語る。
まず、軽量化では、一般的な自動車においてフロントガラスを除く窓ガラスの総重量が43kgであるのに対して、それらをすべて樹脂ガラスに置き換えることで23kgまで重量を減らすことができる。この軽量化によって、自動車の燃費を向上させることが可能である。次に、デザインの自由度では、多様な曲面を持ったガラス部品を製造できるようになり、自動車の商品力を向上できるようになる。3つ目の部品の統合については、無機ガラスでは別々に製造して後から組み立てていた部品を、一体成形するなどして統合することで、製造工程を簡素化することが可能になる。「部品の統合によって、樹脂ガラスは、無機ガラスを用いる場合と比べて価格的にも競争性のある製品になる」(McMahon氏)という。また、SABIC IP社で自動車部門担当の副社長を務めるGregory A Adams氏は、「5〜10年後の新車には、樹脂ガラスが広く採用されるようになっているだろう」と述べる。
アルバック社長の中村久三氏は、樹脂ガラス製造装置の市場需要について、「2015年に自動車の世界市場は8600万台の規模となる。これらの自動車のフロントガラスを除く窓ガラスの総面積は1億3000万m2に達する。このうち10%が樹脂ガラスになるとすれば、樹脂ガラスのプラズマコーティング装置の需要は、年産25万m2の装置で52台と見積もることができる。この見積もりにおいて、樹脂ガラスに置き換わるのが自動車後部の窓ガラスだけだったとしても、年産25万m2の装置が34台必要になるだろう」と説明する。また、将来的には、液晶ディスプレイのガラス基板の代替など、自動車用途以外の分野への展開も見据えている。
なお、Exatec社の技術は、射出成形したポリカーボネート樹脂に、塗布プロセスによる表面ハードコーティングを行ってから、その後に数十℃程度の低温下で有機ケイ素材料を用いたプラズマコーティングを行うというものである。Exatec社は、最後のプラズマコーティングプロセスでは、高度な真空技術が必要になることから、真空技術を用いた各種製造装置で有力なアルバックを提携パートナとして選択した。また、SABIC IP社は、今回の提携をきっかけに、自動車向け樹脂ガラスを大量生産する手段を具体化することで、ポリカーボネート樹脂の需要を拡大できるようになると見ている。
(朴 尚洙)
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