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3D普及への道対応機器で解決されるべき課題とは?(3/3 ページ)

3D映画の公開や、3Dテレビ、3Dビデオカメラの発売や発表が相次ぐなど、3D業界の勢いは加速するばかりだ。今後も3D対応機器やコンテンツが増加するのは間違いないが、一般家庭に3Dテレビを普及させるには、3Dメガネやディスプレイ、コンテンツの配信方法についての課題を解決しなければならない。本稿では、3Dの実現方式について簡単に見直した後、3Dを普及させる上で問題となる事柄を指摘してみたい。

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自動立体視ディスプレイの欠点

 上述した問題を、3Dメガネを使用しない戦略によって解決しようと、複数のメーカーが自動立体視ディスプレイを開発した。それらのディスプレイでは、レンチキュラーレンズやパララックスバリア方式、またはその他のメカニズムによって、平坦な投射面で奥行き感を生成する。

 ただし、自動立体視ディスプレイにおいて適切な効果を得るには、視聴者が最適な姿勢を維持し続けなければならない。また、理想的な条件下においても、自動立体視ディスプレイは十分に満足できる映像を提供することはできない。筆者はこの数年間で数多くの自動立体視ディスプレイを目にしてきたが、少しでも感心できる製品には、まだ巡り合えていない。

 幸い、視聴者は、自動立体視ディスプレイを2Dモードに切り替え、普通のコンテンツを視聴することができる。とはいえ、自動立体視ディスプレイを早期に購入するユーザーを十分に確保し、量産化に向けてコスト/価格の大幅な低減を図るのは、大画面有機EL(Organic Electro-Luminescence)ディスプレイのような特殊なディスプレイの場合と同様、やはり難しいことである。

配信上の問題点

表1 各種3Dビデオフォーマットのフルフレームに必要な帯域幅(通信速度)
表1 各種3Dビデオフォーマットのフルフレームに必要な帯域幅(通信速度) 

 もともと2Dフレーム伝送用の帯域幅しか持たない有線/無線の伝送路で、右目用と左目用が別々に用意されたビデオフレームデータを伝送することは可能なのだろうか。単純に考えれば、それは不可能である。そこで、3D効果を実現するためには、何らかのトレードオフが生じることになる。

 帯域幅を減少させる方法としては、ピクセル(画素)当たりの色深度を低くするか、再生フレームレートを下げるかの2つが考えられる。HDMI(High-Definition Multimedia Interface)を例にとってみよう*8)。現在広く普及しているHDMIバージョン1.3の帯域幅は340MHzで、シングルリンクの帯域幅は、1つ前のHDMIバージョン1.2の2倍以上になっている。これは、10.2ギガビット/秒(Gbps)のTMDS(Transition Minimized Differential Signaling)の帯域幅、あるいは8.16Gbpsのビデオ帯域幅に相当する。このビットレートであれば、フルフレームの720p30や1080i60、さらには1080p60のビデオの3D版を、24ビット/ピクセルのカラーで十分に伝送可能である(表1)。しかし、色深度、フレームレート、または解像度がさらに高い3Dビデオクリップになると、HDMI 1.3や、それと同じ速度のHDMI 1.4では、帯域幅の面で不足が生じるかもしれない。例えば、コンピュータや高性能のゲーム機上で動作するゲームからのデータの場合、そのように要件が高い可能性がある*9)

図3 画像の解像度を下げる方法
図3 画像の解像度を下げる方法 これまで1フレーム分のデータを伝送していた帯域幅に、両目分の情報を詰め込むための方法の1つは、ピクセル結合技術を利用して、それぞれの目に対する画像の解像度を下げることである。そうした方法には、左右分割方式(a)、上下分割方式(b)、ラインバイライン方式(c)、碁盤の目方式(d)などがある。ただし、フルフレーム2つ分のピクセルを収められるだけの十分なペイロードがあったとしても、伝送チェーンの最後にある表示ハードウエアがそれに対応しているという保証はない(e)。

 ブロードバンドインターネットWAN(Wide Area Network)、有線/無線LAN(Local Area Network)、ATSCブロードキャストビーコンなど、帯域幅が狭い接続では、3Dへの対応はさらに難しくなる*10)。右目用と左目用のデータに相当する2フレーム分の情報が、1フレーム分のデータに使用していた伝送帯域幅に入るように、フレーム当たりの解像度を下げなければならない。解像度を下げるためには、いくつかの手法が存在する(図3)。

 左右分割(Side by Side)方式では、ディスプレイまたはプロジェクタ内のビデオプロセッサによって、それぞれの目の画像をフルフレームサイズまで水平に拡大する。上下分割(Over and Under、Above and Below、またはTop and Bottom)方式では、垂直方向の拡大を実施する。現在すでに公開されているHDMIバージョン1.4aの規格では、上下分割方式のサポートの追加が主要項目の1つになっている。そのほか、ソースフレーム上に右目と左目のデータを、ラインバイライン(Line by Line)方式、または碁盤の目(Checkerboard)方式のパターンで分散させる手法もある。

 ただし、伝送チャンネルがフルフレームの3Dデータに対応可能であったとしても、表示先であるディスプレイでは、ファームウエアをアップグレードしなければ、3Dに対応できないかもしれない。例えば、上下分割方式による3Dデータの1920×2205ピクセルというフレームサイズは、現在使用されているほとんどすべてのディスプレイやAVレシーバ、HDMIスイッチボックスにおけるEDID(Extended Display Identification Data)とは互換性がない*11)

3Dビデオカメラも登場

 2Dから3Dへの移行において、伝送チャンネルに問題を引き起こす恐れのあるデータペイロードの制約は、ビデオ情報を保存するストレージデバイスにも影響を与える可能性がある。フレームごとに左目用/右目用の情報をフルフレームで保存するには、2Dの2倍以上の容量が必要になるからだ。

 2009年12月に、業界団体のBlu-ray Discアソシエーションは、3Dビデオフォーマットをサポートすると発表した。これは、DVDよりも大容量であるBlu-rayディスクにとっては歓迎すべきことかもしれない。従来型のビデオ映像のキャプチャには、2つのレンズが必要である。それに加えて、おそらくは2台のセンサーと2台のストレージデバイスも必要となるだろう。

写真1 3Dカメラ
写真1 3Dカメラ パナソニックは、プロ向け3Dビデオカメラの発売を計画している(a)。富士フィルムの3Dビデオカメラは、パナソニックの製品よりも機能は低いが、その分安価である(b)。

 パナソニックは、そのようなプロ向けのビデオカメラを、2010年1月のCESで披露した。同社が以前、2009年4月の『NAB(National Association of Broadcasters)』で発表した「AG-3DA1」は、2010年夏に発売される予定である(希望小売価格は220万5000円)。同じCESで米NVIDIA社は、報道陣向け発表会で、同社のプロセッサを搭載したビデオカメラを紹介した。パナソニックのAG-3DA1よりも機能は低いが、手ごろな価格を実現した富士フィルムのビデオカメラ「FinePix Real 3-D W1」である(写真1)。

 さらに、Blu-rayの最大の支持企業であるソニーなど、大手民生電子製品メーカーは、当然のことながら、3Dをサポートするスチルカメラやビデオカメラの事業を計画している。また、CESでは、エントリレベル向けの画像処理技術メーカーからもデモが披露されていたことから、3D技術が広範囲の市場に急速に普及していくであろうとの予測が行える。

 “3D業界”と標準規格が確立するまでは、キャプチャ装置、再生装置、およびそれらを中継する装置の間に、最初はある程度の非互換性が生じることは避けられない。また、本稿で紹介したような課題が存在することも事実だ。しかし、3Dの普及がそれほど遠い日の話ではないのは確実である。

3D版リメイク映画も登場

 ハリウッドでは、今後公開される映画について、3D版の公開を促すなど、3Dへの移行計画を積極的に進めている。多様な媒体を介して家庭へとストリーミングされるこれらの映画は、本質的に3D対応となる。しかし、3Dを早く家庭に普及させるには、既存の2Dコンテンツを3Dの新しいフォーマットへと変換できる何らかの確固たる手段が必要である。

写真A 3Dのゲームキット
写真A 3Dのゲームキット 有線または無線の赤外線/RF接続を利用して、メガネとコンピュータを接続する。

 フルCG(Computer Graphics)アニメーションであれば、その処理は比較的単純で、各フレームのジオメトリデータに対し、右目用と左目用に、別々のバージョンをレンダリングすればよい。3D版の『ポーラー・エキスプレス』は、この手法によって制作されている*A)。レンダリングのアルゴリズムは、最新のグラフィックスプロセッサならばリアルタイムで実行できる場合もある。その例として、米AMD(Advanced Micro Devices)社とNVIDIA社のチップを採用し、メガネとボードから成るゲームキットが販売されている(写真A)。

 一方、2Dでキャプチャされた映像を3Dへ変換するのはずっと複雑な作業になる。例えば、Tim Burton氏が監督した『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』には、3Dのリメイク版が存在する。この映画の2D版は、ミニチュアモデルをストップモーションの2D画像でキャプチャすることにより制作された。3Dのリメイク版を作るにあたり、制作会社は、まず映画全編を、1フレームずつデジタル化した*B)。次に、高性能コンピュータとグラフィックスプロセッサで膨大な演算処理を行い、各フレームをもう一方の目のためのフレームに変換した。2010年1月のCESで、東芝は、同社のテレビで2Dコンテンツを擬似3Dコンテンツにリアルタイムに変換してみせたが、これは、ナイトメアー・ビフォア・クリスマスのと同じ演算処理を簡素化したものである。



脚注

※8…Dipert, Brian, "Connecting systems to displays with DVI, HDMI, DisplayPort: What we got here is failure to communicate," EDN, Jan 4, 2007, p.46

※9…Dipert, Brian, "Got game? Living-room consoles grapple for consumers' eyes, wallets," EDN, Dec 12, 2005, p.51

※10…Dipert, Brian, "Video characterization creates hands-on headaches," EDN, July 25, 2002, p.53

※11…Fremer, Michael, Editor, "3D HDTV and HDMI explained," HD Guru, Feb 22, 2010

※A…Dipert, Brian, "3-D: nifty," EDN, Feb 22, 2006, www.edn.com/blog/400000040/post/1550002755.html

※B…Dipert, Brian, "3-D stop motion: well-deserved promotion," EDN, Oct 31, 2007, www.edn.com/blog/400000040/post/590016659.html


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