多忙な日々を送られている技術マネジャのために、デジタル設計に関して押さえておきたい事柄を用語集としてまとめてみる。
■グラウンド
架空の電気的対象物であり、電流を無制限に吸収する。SPICEシミュレーションにおいては重宝する概念だが、実在するものではない。レーダーの分野に携わっていた1930年代の技術者たちは、「グラウンドはジャガイモやにんじんを育てる場所にすぎない」とし、その概念に疑問を持っていた。
■寄生効果
回路で起きる不思議な現象。いくら対策を重ねても、あるいは以前の設計担当者にも責任を押し付けて協力を仰ごうとも、根絶できないものである。
■立ち上がり時間
管理職の階段を上る速さを表す時間。立ち上がりの速度は緩やかなこともあるが、高望みしすぎると、高く上がりすぎてオーバーシュートを起こしたり、あるいは急落したりと、地位が大きく変動することになる。
■イコライザ
シリアル伝送回路にとってのチャック・ノリス(元空手ミドル級チャンピオン)。イコライザは、信号のひどい乱れをノックアウトし、全ビットが正常になる確率を高めてくれる。侵入者を気絶させてくれる存在である。
■アダプティブイコライザ
より高度なイコライザ。すなわち、より優れた頭脳を持ったチャック・ノリス。
■決定(ディシジョン)フィードバックループ
重要な経営施策が決定され、その後に撤回され、その後また再決定されるといった繰り返しループのこと。このループは生産性をゼロに落ち込ませる。
■ヒートシンク
CPUに取り付けられる小さな金属部品。原子力発電所における冷却塔のように、システムが完全に破壊(炉心溶融)してしまうことを防ぎ、確実かつ安全に動作させるよう働く唯一の部品である。
■ネットワークアナライザ
常に悪いニュースを届けてくれる高価な装置。ハードウエア技術部門への入社/異動を希望する技術者との面接では、部署に1台必ず備えていると説明される。その技術者が何らかの不具合を引き起こしたら、「あの装置を使わせるぞ」と脅されることになる。
■インダクタ
2端子部品であり、デリバティブ(金融派生商品)のように、強大なスパイクを発生させる。結果として、システムが破滅に至ることもある。もし、インダクタとSPICEという言葉を一文の中で使って話してくる技術者がいたら、少なくとも2日間は、その技術者との話し合いを避けるのが賢明だ。
■ディエンベッディング
時に深夜まで及ぶような長い残業時間を必要とし、正常な眠りを妨げ、不眠症状をもたらすことになる計測上の難しい問題点。
■電源ドループ
正常な電源回路において、負荷回路の動作が激しくなったときに生じる出力電圧の低下。電流を十分に供給できない電源回路の場合、役に立たなくなるほど低下する。直す薬はない。
■起動時間
自社製品のソフトウエア開発主担当者を解雇すると決断してから、彼が勤務場所を飛び出すまでの時間。その製品の動作が遅ければ遅いほど短くなる。
■同時スイッチング出力(SSO)ノイズ
ICメーカーは、電源/グラウンド端子の数を切り詰めることが、安価なパッケージで高速のICを提供する唯一の手段だと信じている。その結果、同時スイッチング出力ノイズは、問題点ではなく、1つの目玉となる性能になった。
■RoHS指令
機械化に反対するラッダイト運動による悪魔的な企み。すべての電子製品を壊れやすく、信頼性のないものとすることを手始めに、コンピュータのない世界を作り出そうとする。RoHS指令は西洋文明の没落を早める可能性があるが、それまでは、笑顔でついていこう。
■可視化
頭の中で行われる処理の1つ。ハードウエア技術者には、ほかの分野の技術者以上に、問題に対する解決策を可視化することが求められる。つまり、眼を閉じていても思い浮かぶようにしなければならない。耳慣れたいびきが聞こえてきたとしても、それは完全に集中している状態にあることの表れである。可視化に集中している技術者をじゃますべきではない。
<筆者紹介>
Howard Johnson
Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。
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