マルチメーターの落とし穴:Wired, Weird
マルチメーターの赤と黒の端子はどちらがプラスの電位になっているのだろうか。測定時にかかる電圧はどの程度なのだろうか。意外なことに、機器ごとにばらばらだ。そのため、測定対象の部品の劣化を招くこともある。
電子部品を劣化させることも……
最近では、自分専用のマルチメーターを持っている人も少なくない。導通チェックのために、マルチメーターを抵抗測定モードやブザーモードで使用すると思うが、そのとき、赤と黒の端子では、どちらがプラスの電位になっているのかご存じだろうか。また、測定時にかかる電圧(以下、測定電圧)は何Vくらいなのか、電流はどのくらい流れるのかといったことを把握しているだろうか。
大半の人は、測定電圧の極性は、針式のマルチメーターでは黒がプラス、赤がマイナス、デジタルマルチメーターでは赤がプラス、黒がマイナスだと思っている。筆者もそう思い込んでいたのだが、たまたま購入したデジタルマルチメーターでは赤がマイナス、黒がプラスであった。つまり、この極性については、特に規格やルールは定められていない。測定電圧も複雑で、通常は測定レンジによって値が変わり、測定する抵抗の値が小さいほど高くなる。中には、7V近い電圧を出力する製品もある。ぜひ、お手持ちのマルチメーターについて、測定端子の極性と測定電圧を確認されたい。これら2つが、マルチメーター使用時の大きな落とし穴となるからだ。
電気/電子部品の中には、逆耐電圧の低いものが多数ある。数Vの逆電圧を印加しただけで劣化してしまう部品も少なくない。代表的なものには、タンタル電解コンデンサやレーザーダイオードがある。タンタル電解コンデンサの場合、取り扱い上の注意事項に、「マルチメーターなどで測定される場合は、端子の電圧をよく確認し、逆電圧がかからないようにご注意ください」と明記されているはずだ。
つまり、マルチメーターを使ってチェックする際、部品の逆耐電圧とマルチメーターの極性について把握しておかないと、その部品を劣化させてしまうことがあるのだ。特に、タンタル電解コンデンサの場合、0.6V程度が限界で、数Vの逆電圧でも劣化してしまう恐れがある。アナログ回路でタンタル電解コンデンサが劣化すると、漏れ電流が増えて回路の特性が変化してしまうので要注意だ。
低電圧/低閾値のブザー回路
上述した問題を回避するために、基板のチェック用のブザー回路を考案した(図1)。この回路の特徴は、測定電圧が低く、閾(しきい)値も低いことだ。閾値(ショートと判定する抵抗値)を低くした理由は、このことが配電盤などを検査するときに重要になるからである。市販のマルチメーターの場合、閾値は50Ω程度だが、これだと、配線をチェックする際、配電盤内のトランスや電源に電流が回り込んでブザーが誤動作するという問題が起こることがある。
図1の回路では、抵抗値の比較とブザー用の発振回路としてオペアンプU1を使用している。電源電圧範囲はオペアンプの特性で決まり、この例の場合、3VDC〜24VDCの範囲で使用できる。測定電圧は、いったん赤色LED(D0)で2V程度に落とし、さらに出力端子(TEST端子)にダイオードを追加することで0.5V程度まで落としている。これなら、タンタル電解コンデンサなどに接続しても劣化の心配はない。
この回路の本質は、抵抗比が6:1のブリッジ回路である。抵抗R7とR8、抵抗R6とTEST端子部の抵抗値の関係から、ブリッジ回路の閾値は30Ωとなる。従って、TEST端子につながる被測定物の抵抗閾値は、30Ω〜29Ω=1Ωとなる。もちろん、入力抵抗を変えれば、閾値は変更できる。
なお、このブザー回路を電池で動作させたい場合には、回路内の抵抗値を高くし(例えば、R1〜R4を100kΩとし、C1を0.01μFとするなど)、CMOSオペアンプを使用することで、消費電流を抑えるとよい。
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