汎用部品で構成した周波数シンセサイザ:Design Ideas
ハードウエアベースの周波数シンセサイザは、安価な1個の専用ICと数個の受動部品を使えば構成できる。本稿で紹介する回路は、汎用部品を使用して実用的な回路を短期間で実現する必要に迫られたことから考案したものである。
ハードウエアベースの周波数シンセサイザは、安価な1個の専用ICと数個の受動部品を使えば構成できる。しかし、そのような専用ICは標準ロジックICのように複数の製造元が同一の仕様で製品化しているわけではない。また、部品販売業者が常にストックを持っているというわけでもないので、いつでも入手できるとは限らない。本稿で紹介する回路は、汎用部品を使用して実用的な回路を短期間で実現する必要に迫られたことから考案したものである。
図1の周波数シンセサイザ回路は、米国の商用AM(Amplitude Modulation)放送帯域をカバーする。500kHz〜1800kHzまでを10kHzステップでチューニング(同調)できるものだが、ほかの用途に使えるよう周波数をスケーリングすることも可能だ。PLL(Phase Locked Loop)の基準信号としては、腕時計で使うのと同じサイズの100kHzの音叉型水晶振動子Y1を使用している。もっと一般的な水晶振動子を使用することも可能ではあるが、その場合、周波数をスケーリングするために追加の部品が必要になる。また、そうした水晶振動子を、CMOSトランジスタを用いた発振回路と組み合わせて使用する場合、発振が始まらないことや顕著なジッターが生じることがあるので注意を要する。図1の回路でトランジスタQ3とQ4を使って構成しているフランクリン型発振回路であれば、よりうまく作動する。また、トランジスタQ1、Q2を中心に構成したVCO(Voltage Controlled Oscillator)も、このフランクリン型発振回路として実現することでうまく機能する。
この回路では、デュアルの10進カウンタIC「74HC390」の一方(IC4A)を使用し、100kHzの基準周波数クロックを10kHzのPLL周波数クロックに分周する。この10kHzのクロックが、位相比較器として働くセット/リセット付きフリップフロップIC3BのCLK端子に入力されるとともに、D12〜D15から成る昇圧回路を駆動する。この昇圧回路は約12Vの電圧を生成するが、これはVCOのバラクタ(可変容量、バリキャップ)ダイオードD1を同調範囲の上端にバイアスするために必要となる。
VCOは所望の出力周波数の2倍の周波数で動作する。バラクタダイオードD1とインダクタL1は同調を実現するタンク回路を構成する。バラクタダイオードの容量は、DCバイアスがないときの500pFから12Vの逆バイアスをかけたときの25pFまで変化する。フリップフロップIC1Aは、このLC発振回路からの信号を2分周し、出力を対称方形波に整える。このVCO部からの信号は、4ビットのバイナリカウンタIC2によってPLL周波数クロックに分周する。そして、フリップフロップIC1Bによって単発パルスを生成し、IC2の各部で目標カウント値になったら、IC2にリセットをかける。
この分周回路(IC2)では、DIPスイッチのS1を利用することでシンセサイザの出力周波数を設定することができる。それには、まず最初に必要な徐数(分周比)を計算する。例えば、1140kHzの出力が必要だとすると、VCO部からの信号を114分周してPLL周波数である10kHzに等しくする必要がある。この場合、合計した値が114になるよう、S1において64、32、16、2のスイッチを閉じる。
VCO部からの信号を分周した信号の周波数が10kHzより高い場合、IC3BのQ出力がハイになり、IC3AのQ出力が10kHzのパルスになる。この動作に伴ってトランジスタQ6がオンになり、その結果、ダイオードD16が逆バイアスになるため、バラクタダイオードD1は12Vの電源に対してハイインピーダンスの状態になる。すると、ループフィルタ用のコンデンサC2が抵抗R15とトランジスタQ5を介して放電する。VCO部からの分周信号の周波数が10kHzよりも低い場合には、IC3AのQ出力がローになり、その結果、Q5がオフになって、グラウンドへのパスが遮断される。このとき、Q6がオン/オフの繰り返し動作を行い、ダイオードD15と抵抗R16、ダイオードD16、抵抗R2を介してコンデンサC2の充電が行われる。PLLがロックしている状態では、Q5はオフ、Q6はオンになる。
脚注
※1…Shahriary, I, G Des Brisay, S Avery, and P Gibsan, “GaAs Monotithic Phase/Frequency Discriminator,” IEEE GaAs Symposium, 1985, p.183
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