図1は、ポンプAが一定の圧力P1でループ型の配管に水を押し出す配管システムの様子を表している。バルブBがある程度(あるいは完全に)開放されて保持されている状態にあれば、パイプ内を流れる水の速度は一定の値V1となる。この速度は、ポンプの圧力、水の粘性、パイプ/バルブ/曲がり管の実効的流体抵抗によって決まる。
この配管システムの動作は、簡単な電気回路の挙動に例えることができる。どのような回路かと言えば、1つの電池と1つの抵抗を配線で接続したシンプルなものだ。この回路において、電池の発生する直流電圧がポンプの送出端での水圧に対応し、配線における電流の循環が配管システム内での水の循環に対応するということである。
水の配管システムと電池/抵抗から成る電気回路の間で、抵抗の概念は簡単に対応づけることができる。パイプの流体抵抗を、その両端間での圧力の差を水の流量で割ったものであると定義すると、長くて細いパイプであるほど抵抗値が高くなる。これは、電気回路における抵抗の性質と比較してごく自然なものなので、ほとんどの電気系技術者にとって違和感はない。すなわち、長くて細いパイプが高い抵抗値を持つことは、直観的に理解できるであろう。また、短くて太いパイプでは抵抗値が小さくなることも、極めて自然なことであると感じられるはずだ。
ただし、水の動きと電子の動きにはいくつかの違いがある。そのうちの1つは、線形性に関することである。一定の長さを持つパイプの流体抵抗は、流量の2乗に比例し、電気的抵抗を扱う際に前提とされるのと等価的な線形関係は持たない。筆者は、学生のころ、水と電子の動きの類似性について議論したことがあるが、この線形性の有無という違いについて注意を向けさせてくれる人はいなかった。
水の配管システムとは異なり、抵抗のような電子部品は単純な線形特性を持つ。この点に注目するが故に、電気系の技術者は、あらゆる問題を線形マトリクス解析とラプラス変換によって解こうとする傾向がある。ところが、これらの強力なツールが初心者を混乱させることもある。
電気工学の学生は、線形解析から学び始めるのではなく、まずは非線形回路について十分に学習すべきである。実際、FETやバイポーラトランジスタのようなデバイスは、非線形性や温度依存性を有しているので、まずは非線形動作について理解するほうが賢明だ。
水をベースとする配管システムと電子をベースとする電気回路は、いずれも無数の微小粒子の運動に依存したものだという共通点がある。そのため、本稿で触れたこと以外にも、多くの類似性を持っている。例えば、パイプに過度に大量な水を送り込むと、それによる圧力の上昇によってパイプが破裂する恐れがある。そうすると、パイプのバルブ側の部分からは水は流れ出なくなり、大量の水漏れの後始末を行わなければならなくなる。一方、電気回路では、その回路にとって過負荷となる抵抗は過熱/溶融し、電流が流れなくなるとともに、ひどい匂いと付き合わなければならないはめになる。
信号振幅のような大きなスケールでの物の見方が存在する一方で、神経終末(Nerve Ending)からのイオンの拡散のように高感度な液圧システムでは、ブラウン運動のようなミクロな要素が影響を及ぼす。同様に、電気回路では熱雑音による影響が存在する。どちらにしても、微小粒子を閉ループ内に押し込んでいることによって生じる同様の効果だと言える。
<筆者紹介>
Howard Johnson
Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。
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