ルネサス エレクトロニクスは2010年11月、東京都内で記者会見を開き、8ビットと16ビットのプロセッサコアを搭載する同社のマイコン製品群を、新製品「RL78ファミリ」に統合することを発表した。RL78ファミリの製品は、2011年1月にサンプル出荷を始める汎用マイコンの「RL78/G13グループ」を皮切りに、2011年度末までに700品種以上を市場投入する計画。2015年度には、RL78ファミリの年間売上高で500億円を目指す。
ルネサスで執行役員兼MCU事業本部長を務める水垣重生氏(写真1)は、「現在、当社のマイコン製品は、8ビット、16ビット、32ビットの各市場でトップシェアであり、マイコン全体のシェアでも圧倒的トップの位置にあるわけだが、今後のマイコン市場は、単純にプロセッサコアのビット数によって用途が分かれるのではない。現在の8ビット市場の主軸となっている低消費電力/低価格が求められる用途と、現在の32ビット市場の主軸となっている高性能が求められる用途に二極化していくだろう。そこで、現在3つある8ビット/16ビットマイコンの製品ファミリを、低消費電力/低価格を求められる用途により適した新たな製品ファミリとして統合することを決定した」と語る。
ルネサスの合併前の2社(NECエレクトロニクスとルネサス テクノロジ)が展開していた8ビット/16ビットマイコンの製品ファミリは以下の3つがある。8ビットマイコンは旧NECエレクトロニクスの「78K0ファミリ」、16ビットマイコンは、旧NECエレクトロニクスの「78K0Rファミリ」と旧ルネサス テクノロジの「R8Cファミリ」である。また、78K0ファミリと78K0Rファミリは、ひとまとめにして「78Kファミリ」と呼ばれることもある。今回のRL78ファミリの発表に合わせて、78KファミリとR8Cファミリの製品開発は2011年度の初頭から段階的に縮小される。そして、2011年度末以降、低消費電力/低価格を求められる用途向けのマイコン製品の開発は、RL78ファミリに一本化されることになる(図1)。
RL78ファミリは、78KファミリとR8Cファミリ、それぞれが持つ特徴を1つに統合した製品となっている。まず、プロセッサコアとしては、78K0Rファミリに用いられている16ビットの「78K0R」コアをベースにした「RL78」コアを採用した。水垣氏は、ベースコアとして78K0Rを選んだ理由として、「78K0Rコアは78K0やR8Cよりもアーキテクチャが新しく、消費電力性能と処理性能でも優れる。これをベースにすることによって、低消費電力/低価格が求められる用途向けのマイコンに対する当社のプレゼンスを示せると考えた」と説明する。RL78ファミリの動作電圧は1.6V〜5.5V(RL78/G13グループの場合)。そして、基本動作条件における消費電流は70μA/MHz、スタンバイ時(リアルタイムクロックと低電圧検出回路のみ動作)は0.7μAである。これらの数値は、8ビット/16ビットマイコンの競合他社品の消費電流が、基本動作時で150μA/MHz〜380μA/MHz、スタンバイ時で3.6μA〜12.5μAであるのに比べてかなり小さい。一方、処理性能は、1.27DMIPS(Dhrystone MIPS)/MHzである。ちなみに、英ARM社のローエンドマイコン向けプロセッサコア「Cortex-M0」の処理性能は、0.9DMIPS/MHzとなっている。動作周波数が32MHzのRL78/G13グループの場合、動作時の消費電流は2.24mA、処理性能は41DMIPSとなる。
また、RL78ファミリは、130nmプロセスを用いて製造される。微細な製造プロセスの採用により、さらなる消費電力の低減が可能になった。例えば、従来品の消費電流は、150nmプロセスを用いて製造していたR8Cファミリの場合、動作時で140μA/MHzだった。また、ルネサスは、熊本川尻工場(熊本県熊本市)と西条工場(愛媛県西条市)に、それぞれ130nmプロセスの製造ラインを保有している。このため、両工場を使ったRL78ファミリのクロス生産による製品供給の柔軟性の確保や、災害などの緊急時の製品供給にも対応可能になるという。
RL78ファミリの特徴として挙げられるのが、78KファミリとR8Cファミリに用いられていた豊富な周辺機能を活用できることである。特に、R8Cファミリが備えていた、高精度の内蔵発振器、100万回の書き換えが可能なデータフラッシュ、プロセッサを介さずにメモリ−‐レジスタ間のデータ転送を可能にするDTC(Data Transfer Controller)などの周辺機能を活用することにより、競合他社のマイコン製品との差異化を図ることができるという。ほかにも、欧州の家電向け機能安全規格IEC 60730に対応できるように、機器の誤動作を防ぐための周辺機能なども用意している。これらの豊富な周辺機能に加えて、内蔵フラッシュメモリーの容量については1Kバイト〜512Kバイト、端子数については10本〜128本、パッケージについてはSSOP、QFN、LGA、QFP、BGAといったバリエーションを用意する。これにより、現行の3ファミリの合計よりも品種数を大幅に増やす計画だ。水垣氏は、「2011年度の前半に、汎用品を中心として350品種を投入する。後半には、車載向けなどのASSP的な製品も加えてさらに350品種を予定している。2011年度末の時点で、現行の3製品ファミリの合計と比べて品種数は1.5倍になる。まさに“怒涛の”製品展開と言えよう」と強調する(図2)。
RL78ファミリ向けのソフトウエア開発ツールについては、2011年1月〜4月まで、旧NECエレクトロニクスが展開していた78K0Rファミリ向けの統合開発環境「CubeSuite」で対応する。同年4月からは、ルネサスが展開するすべてのマイコンのプロセッサコアに対応する新しい統合開発環境を提供する予定だ。一方、ハードウエア開発ツールは、2011年1月のサンプル出荷に合わせて、オンチップデバッギングエミュレータ「E1」とフラッシュメモリー書き込みツール「PG-FP5」を提供する。
なお、現行の3ファミリで使用しているソフトウエア資産の再利用については、「78K0Rファミリでは、RL78とプロセッサコアのアーキテクチャが同じなのでほぼ問題なく再利用できるだろう。78K0ファミリも、78K0Rファミリと互換性があるので同様の対応が可能だ。プロセッサコアのアーキテクチャが異なるR8Cファミリについては、ソフトウエア資産をそのまま再利用するのは難しい。ただし、2011年1月から投入するCubeSuiteや同年4月に提供する新しい統合開発環境では、周辺I/Oのドライバを自動的に生成する機能を追加している。この機能を活用すれば、R8Cファミリで用いていたソフトウエア資産と同等の機能を短い期間で開発することが可能だ」(水垣氏)という。
ルネサスのマイコン事業は、2010年度の売上高として4000億円を目標としている。このうち、8ビット/16ビットの3つの製品ファミリの売り上げは、30%弱に当たる約1200億円である。このような8ビット/16ビットマイコンの売り上げ規模の現状に対して、RL78ファミリは2015年度の売上高目標を500億円としている。同社は、マイコン事業全体の2010年度〜2012年度にかけての年平均成長率として8〜10%を目標としている。8ビット/16ビットマイコンの成長率目標は明らかにされていないものの、2010年度〜2015年度の年平均成長率を5%と想定すれば、8ビット/16ビットマイコンの売り上げ規模は1500億円強となる。つまり、発売後5年間で、8ビット/16ビットマイコンの1/3がRL78ファミリに置き換えられることになる。
(朴 尚洙)
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