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電動バスの実用化に注力、実質価格は3000万円に紙屋 雄史氏 早稲田大学 理工学術院 環境・エネルギー研究科教授

早稲田大学の環境・エネルギー研究科では、電動バスの実用化を主な目標として電動車両に関する研究を行っている。同研究科教授の紙屋雄史氏に、2010年10月から走行実験を開始した電動バス「WEB-3」を中心として、研究の状況を語ってもらった。

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非接触給電システムも開発

 今後10〜20年の間に用いられる電気自動車は、現行のリチウム(Li)イオン電池の性能から考えると、大きく2つのタイプに分かれるだろう。1つは、満充電から100km程度の中距離を走行できるコミュータカー。もう1つは、走行可能距離は短いが、充電を高頻度に行うことでそれを補うバスやタクシーだ。特に、バスについては、走行するルートが決まっているので、Liイオン電池はそれに必要な分の容量を搭載するだけで済む。また、公共交通であるバスの電動化によるCO2排出量の削減効果も大きい。


 当研究科で、最も力を入れてきたのが電動バスに関する研究だ。2002年から行っており、これまでに5台の車両を試作した。また、それらの試作車のナンバー取得を行い、公道走行による実証実験も行っている。大学における電動車両の研究で、ここまでやっているところは少ないだろう。

 2010年10月から走行実験を開始した「WEB-3」は、試作車両の中で最新のものだ。WEB-3は、日野自動車の低床マイクロバス「ポンチョ ロング」をベースに、ディーゼルエンジンに替えて電動システムとLiイオン電池を搭載した。満充電からの走行距離は、公共交通に用いるのに十分な65kmである。充電時間は、電池残量がゼロの状態から満充電までで1.5〜2時間。ただし、継ぎ足し充電であれば、10km走行した後にその10km分の容量を充電するのに要する時間は10分〜15分程度で済む。

 また、WEB-3は、電磁誘導方式による非接触給電システムも利用できるようにしている。電気自動車の充電方式の主流は充電ケーブルを用いる接触方式だ。もちろん、WEB-3でも接触方式による充電が行える。しかし、電動バスを運用する際には、基本的に走行ルートを1度周回するごとに充電することになる。このため、接触方式による充電は、バスの運転手に従来よりも多くの役務を課すことになりかねない。そこで、充電作業を自動的に行ってくれる非接触給電システムの開発を、昭和飛行機工業と共同で行った。

「WEB-3」複製車両の量産へ

 われわれが行っている電動バスの研究は、実用化を強く意識したものだ。そこで、WEB-3は、その複製を容易に製造できるような設計にしてある。実際に、2010年内には、WEB-3をベースにした複製車両の1号車の製造が完了する予定だ。2011年には5台以上の複製車両を製造することを計画している。

 WEB-3の最大の特徴は、電動バスとして価格をかなり低減できている点にある。例えば、WEB-3のベースとなっているポンチョ ロングの価格は約1600万円。これに対して、電動化を施したWEB-3の価格は6000万円〜7000万円となっている。高価だと感じるかもしれないが、1億円を大幅に下回る価格を実現したのは画期的なことだ。

 もし、電動車両を購入する際に得られる政府の半額補助を受けることができれば、実質的な価格は約3000万円まで下がる。この3000万円という価格は、環境対応型バスとして知られるCNG(圧縮天然ガス)バスと同等である。つまり、環境対応を進めている民間事業者にとって、WEB-3の複製車は有力な選択肢になるわけだ。加えて、走行ルートによっては、WEB-3に搭載しているLiイオン電池よりも容量を減らすことで、さらに価格を低減することも可能だ。なお、これらの価格には、非接触給電システムの価格は含まれていない。

 現時点において、コストをかけずに電動バスを開発/製造する方法は、ディーゼルバスの電動化しかないと見ている。生産台数の少ないバスは、価格の割に売上高が増えないので、商用車メーカーがいきなり電動バスの専用車両を設計するのはリスクが高すぎる。専用設計の電動バスが登場するのは早くても2020年以降になるだろう。

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