タッチパネル技術の最新動向を追う:抵抗膜方式か? 静電容量方式か?(1/4 ページ)
「iPhone」や競合製品により、その利便性に対するユーザーの認知度が高まったこともあって、タッチパネルを備えた機器がますます普及しつつある。タッチパネルにはさまざまな方式があるが、それぞれに長所と短所が存在する。本稿では、現在も広く利用されている抵抗膜方式と、注目度がますます高まっている静電容量方式の最新技術について解説するとともに、コントローラICベンダーの新たな取り組みなどを紹介する。
タッチパッドから派生
米Apple社のスマートホン「iPhone」やタブレット端末「iPad」が、世界全域で販売台数を伸ばしていることは周知のとおりである。このことから、これらの製品の入力インターフェースであるタッチパネルの隆盛は、2007年1月に発売された第1世代のiPhone(写真1(a))によってApple社が独力でもたらしたと思っている人がいるかもしれない。しかし、本誌の読者であれば、当然そのようなまやかしにだまされることはないはずだ。実際、読者の中には、「Apple社CEO(最高経営責任者)のSteve Jobs氏が2007年1月の『Macworld Expo』でiPhoneを発表する何年も前から、タッチパネルを搭載する機器を開発していた」という人もいるだろう。
写真1 タッチパネル技術を採用したApple社の製品群 Apple社は、タッチパネル技術をさまざまな製品に採用している。マルチタッチという概念を広く世間に知らしめたのが第1世代の「iPhone」である(a)。同社は、iPhone以前にも、第3世代の「iPod」(b)ではタッチホイールを、1994年5月発売の「PowerBook 500シリーズ」(c)ではタッチパッドを初めて搭載するなどしている。2005年8月発売の「Mighty Mouse」では、入力インターフェースに静電容量センサーを導入した(d)。そして、2010年8月には、テスクトップ型パソコン向けの大型タッチパッド「Magic Trackpad」を発売している(e)。
技術的観点から見れば、タッチパネルは、1971年にSam Hurst氏によって開発された入力インターフェースの一種であるタッチパッドから派生したものでしかない。Apple社の事例で言えば、2003年に発売した携帯型音楽プレーヤ「iPod」の第3世代品は、従来品では機械式のホイールだった入力インターフェースを、タッチパッドに置き換えている(写真1(b))。また、1994年5月発売の「PowerBook 500シリーズ」では、ノート型パソコンでは初となるタッチパッドを、それまでのトラックボールに替えて搭載した(写真1(c))。
タッチパネルインターフェースに関する特許の多くは、1970年から1980年代末にかけて申請されたものである。これらは、すでに特許としての有効期間を終えているので、タッチパネル関連の部品の調達は安価かつ容易に行うことができる。このことは、設計している機器にタッチパネルを組み込みたいと考えている技術者にとっては朗報だと言えよう。
本稿では、1本または複数本の指先、あるいはスタイラスを使用するパッシブタイプのタッチパネル技術について説明する*1)。なお、ペンタブレットなどに用いられているアクティブタイプのタッチパネル技術については、最近では利用される機会が大幅に減少していることもあり詳しくは取り上げない(別掲記事『さまざまなタッチパネル技術』を参照)。
さまざまなタッチパネル技術
抵抗膜方式および静電容量方式のタッチパネル技術では、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイの上面に、タッチ位置を検知するセンサー部品が設置される。これらは、オンセル型のタッチパネルと呼ばれている。
オンセル型に対して、インセル型のタッチパネルも存在する。インセル型では、ディスプレイパネルの内部に、フォトダイオードなどの光検出回路や電圧ベースのマイクロスイッチ、電荷を検知する容量素子などの電極が配置される。
タッチパネル技術には、抵抗膜方式や静電容量方式以外にも注目すべきものがいくつか存在する。例えば、SAW(表面弾性波)、赤外線、歪(ひずみ)ゲージ、光画像処理、分散信号、音響などの方式がある*A)。これらの手法には、それぞれ長所と短所がある。
SAW方式は超音波方式とも呼ばれており、タッチ位置の検知に、タッチパネルの表面を伝播する超音波を利用する。この超音波は、タッチパネルの縁に設置した圧電素子によって発生させる。ユーザーがタッチを行うと、その個所においてタッチパネルは超音波の一部を吸収する。この超音波の変化を圧電素子によって検出し、コントローラICで処理することによってタッチ位置を検知することができる。
赤外線方式では、タッチパネルの周囲に配置された赤外線LEDと光検出器のペアを利用して、LED光線のパターンの遮断を検出することによりタッチ位置を検知する。歪ゲージ方式、または圧力パネル方式では、タッチパネルの4隅に歪ゲージが取り付けられる。ユーザーのタッチによって発生するタッチパネルのたわみからタッチ位置を算出するのだ。光画像処理方式では、2個以上のイメージセンサーを、タッチパネルの一方の面の周囲(主に4隅)に配置する。ユーザーの指がタッチパネルの表面に触れると、赤外線が遮断されて、カメラには影が投影される。そして、複数のカメラを使用した三角測量を利用し、この影を基にタッチ位置を検知するのである(別掲記事『「Microsoft Surface」は失敗したのか?』を参照)。
分散信号方式では、タッチによってガラスの中に生じる機械的エネルギーをセンサーによって検出する。続いて、複雑なアルゴリズムによってこの情報を解析し、タッチ位置を特定する。最後に、音響方式は、タッチパネルの周囲に配置した複数の圧電変換器によって、ユーザーのタッチにより生じた振動を電気信号に変換する。この電気信号は、さらにオーディオ信号へと変換される。このオーディオ信号を、あらかじめ用意されているオーディオ信号の特性ライブラリと比較することにより、正確なタッチ位置を特定するのだ。
大きなサイズのタッチパネルが必要な場合や、従来と動作環境要件が異なる場合には、これらの方式も検討してみるとよいだろう。
「Microsoft Surface」は失敗したのか?
米Microsoft社は2007年5月、30インチ(約76.2cm)サイズのテーブル型タッチパネル端末「Microsoft Surface(以下、Surface)」を発表した。Surfaceの最初の顧客であった米AT&T社は、2008年春から同社の店舗にSurfaceを設置し始めた。そのほかにも、いくつかのカジノ、ホテル、レストラン、店舗がSurfaceを利用し、複数のニュースやテレビ番組で同製品が取り上げられた。
しかし、現在のところ、Surfaceは市場に受け入れられたとは言い難い状況にある。Microsoft社は、11カ国で120社ものアプリケーション開発パートナーと共同開発を行っていることを2009年3月に発表したが、それ以降Surfaceに関する発表をほとんど行っていない。
成功したか失敗したかはさておき、技術的観点から見れば、Surfaceは光画像処理方式タッチパネルの素晴らしい実装例と言ってよいだろう。タッチパネルの表面の下側には、解像度がXGA(画素数1024×768)のDLP(Digital Light Processing)プロジェクタと、不可視光によってタッチパネルの裏側を下から照らす赤外線プロジェクタがともに配置されている。Surfaceの筐体内部に搭載された5台のカメラによって、タッチパネル上またはその近くにある物体で反射した赤外光を検出する。ただし、赤外光を検出する必要があることから、屋外など直射日光を浴びる環境でSurfaceを利用することはできない。
Surfaceは、最大で52カ所のマルチタッチに対応できる。指先やバーコード、ジェスチャなどを認識し、その動きを追跡することも可能だ。
現在市販されているSurfaceは、「Windows Vista」のカスタム版をOSとして採用している。そのハードウエア構成は、一般的なATX規格に準拠するマザーボード2枚分とほぼ同じ面積を持つカスタムのシステムボードに、米Intel社の動作周波数2.13GHzのCPU「Core 2 Duo」、メモリー容量が2GバイトのDDR(Double Data Rate)2 SDRAM、データ容量が250GバイトのSATA(Serial Advanced Technology Attachment)方式ハードディスクドライブ、伝送速度が10メガビット/秒(Mbps)/100Mbpsのイーサーネット、IEEE 802.11b/gに対応する無線LAN通信機能、Bluetooth 2.0に準拠する無線通信接続機能を搭載する。
脚注
※1…Cravotta, Robert, "Recognizing gestures: interface design beyond point and click," EDN, Aug 16, 2007, p.44, http://bit.ly/9gTHuL
※A…"Touchscreen," Wikipedia, http://bit.ly/cTBZSv
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