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タッチパネル技術の最新動向を追う抵抗膜方式か? 静電容量方式か?(4/4 ページ)

「iPhone」や競合製品により、その利便性に対するユーザーの認知度が高まったこともあって、タッチパネルを備えた機器がますます普及しつつある。タッチパネルにはさまざまな方式があるが、それぞれに長所と短所が存在する。本稿では、現在も広く利用されている抵抗膜方式と、注目度がますます高まっている静電容量方式の最新技術について解説するとともに、コントローラICベンダーの新たな取り組みなどを紹介する。

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高い基本性能、複雑な実装

 静電容量方式のタッチパネルでは、タッチ時の圧力によって導電性物質が変形することはない。そのため、抵抗膜方式のものよりも耐久性が高い。また、布を使ってディスプレイ表面をクリーニングする際に、誤動作を起こすこともない。ただし、これは静電気を帯びていない乾いた布を使用した場合に限られる。EMIや水分など、ディスプレイ表面の静電容量の値に影響を与えるような環境的要因によって、静電容量方式のタッチパネルでも誤動作を起こす可能性がある。また、手袋をはめている場合や、スタイラスに非導電性のコーティングが施されている場合など、タッチしても静電容量を変化させることができなくなるような外的要因によっても、誤動作したり、反応しなかったりすることがある。さらに、静電容量方式のタッチパネルの動作は、その電源の品質に大きく依存することもわかっている*3)、*4)


写真2 製品によって異なるタッチ位置の検知精度(提供:MOTO Development Group社)
写真2 製品によって異なるタッチ位置の検知精度(提供:MOTO Development Group社) 左から、Apple社のiPhone、台湾HTC社の「Droid Eris」、米Motorola社の第1世代の「Droid」、HTC社が設計したGoogle社の「Nexus One」、米Palm社の「Palm Pre」、カナダResearch In Motion社の「BlackBerry Storm」。これらのスマートホンを対象に、MOTO Development Group社はタッチパネルのタッチ位置の検知精度をテストした。このテストでは、一定の圧力を加えることができるロボットの指を用いて、スマートホンの画面上に線を引くようなタッチを行った。各スマートホンの画面上の黒い線は、このタッチによって入力された結果、表示されている。写真の上段が、中程度の圧力でタッチした場合の結果で、下段が非常に小さい圧力でタッチした場合の結果である。

 静電容量方式のタッチパネルのアルゴリズムは、抵抗膜方式のものよりもずっと複雑になる傾向にある。ソフトウエアのアルゴリズムがより複雑になるということは、ユーザーのタッチ入力に対して所定の時間内での応答を保証するために、より高性能のプロセッサが必要になるということを意味する。設計者は、アルゴリズムの一部をソフトウエアのサブルーチンとして実装するだけでなく、消費電力が少なくて済むハードウエアとして実現することもある。ただし、静電容量方式のタッチパネルの市場はそれほど成熟しておらず、設計時、製造時、そしてユーザーの手に渡ってからでも、アルゴリズムの内容を変更できるようにしておくことが望ましい。変更を容易に行えるようにしたいというこの要求に基づき、現時点では、アルゴリズムをICとして実装するという選択肢はほぼ除外される。

 米MOTO Development Group社(米Cisco Systems社が買収)は、人気の高い各種スマートホンを対象にした分析調査を実施した。その結果は、静電容量方式のタッチパネルにはさまざまな実装方法が存在することを示している。この調査から、ロボットを使って正確なタッチ入力を行う実験において、各スマートホンの画面全体におけるタッチ位置の検知の正確性には、大きなばらつきがあることも明らかになった(写真2)。

有力ICベンダーの取り組み

 タッチパネル関連ICの有力ベンダーとしては、米Microchip Technology社、米Cypress Semiconductor社、米Atmel社、米Synaptics社などが挙げられる。

図4 「mTouch」におけるタッチ位置検知の仕組み
図4 「mTouch」におけるタッチ位置検知の仕組み Microchip社のmTouchでは、手袋をはめた状態の指をはじめ、導電性を持たない入力手法によるタッチ検出が可能である。同社は、2008年に電磁誘導方式を利用したmTouchを発表した(a)。最近になって、静電容量の変化を検知する方式にも技術を拡張している(b)。

 Microchip社は、「抵抗膜方式と静電容量方式、両方の特性を兼ね備えた」(同社)という電磁誘導方式のタッチパネル技術を「mTouch」というブランド名で展開している。mTouchを用いるタッチパネルでは、上面から順に、たわみ幅が約10μmという柔軟性を備えたフロントパネル、フロントパネル裏面に設置された導電性または導磁性のターゲット、基板上に設置された誘導コイル付きセンサーが並んでいる。フロントパネルの上面をタッチすると、フロントパネルとともにターゲットがたわみ、誘導コイルとターゲットの間のインダクタンスが変化する。センサーがこの変化を検知することにより、タッチ位置の検知が可能になる(図4(a))。同社は、mTouchについて、「この技術は、その基本動作原理により、プラスチック、ステンレス鋼、またはアルミニウムなどのフロントパネルを介して動作することができる。また、手袋をはめた指先や、水分が存在する表面上でもタッチ検出が可能だ」としている*5)

 その後、Microchip社は、静電容量の変化を検出することでタッチ位置の検知が行えるようにmTouchを拡張した(図4(b))。この“静電容量方式”のmTouchも、フロントパネルをタッチした際のたわみを利用する。ただし、この方式では、フロントパネルとセンサーが平行板コンデンサを構成していると見なす。コントローラICにより、平行板の間の距離が短くなったことで生じる静電容量の変化を検出して、タッチ位置を検知するのである。

 現在、Microchip社は、mTouchのタッチパネル向け展開よりも、機械式のボタン、トグルスイッチ、調光器などからの置き換えに注力している。しかし、mTouchが、マルチタッチ対応のタッチパネルに適用可能な技術であることは確かだ。

 一方、Cypress社は、同社の技術「CapSense」におけるS/N比(信号対雑音比)の改善に取り組んでいる。同社は、「パネルにタッチした指だけでなく、パネルの近くにあるものの、まだパネルに接触していない指によって生じた小さな静電容量の変化さえも検知できるようになった」と主張している。CapSense製品についても、現時点では、基本的なボタンやスイッチからの置き換えが主な目標となっている。しかし、長期的には、より高度なタッチパネルへの適用も目指しているという。

 CapSenseを用いれば、近づく指をタッチパネルが検知することで、その位置をディスプレイに表示したり、スリープモードから復帰させたりすることなど、さまざまな機能を実現できるだろう。Apple社は、米Adobe社の「Flash」を敬遠する理由の1つとして、マウスを用いない機器において「マウスオーバー(マウスカーソルを所定の位置にかぶせて配置すること)」機能をサポートできないことを挙げているが、CapSenseによってこの問題を解決できるかもしれない。タッチパネルの近くで指を動かすことによって、スクリーン上のカーソルを制御し、指先で実際にタッチを行った場合をマウスクリックと見なすのである。

 Atmel社は、少なくとも現時点では、通常のタッチパネルをターゲットとした事業展開に集中している。同社のウェブサイトには、従来よりも大きなサイズのタッチパネルのサポートと、応答時間の短縮、消費電力の低減、開発ツールスイートの使いやすさと堅牢性の向上に、継続的に注力すると記されている。また、タッチパッドを用いたシステムの設計者であれば誰でも知っているであろうSynaptics社は、タッチパネルのコントローラICだけでなく、タッチパネル全体を製品として提供するようになっている。


脚注

※3…Dipert, Brian, "Apple's MacBook Air: Above the ground, without a ground, the track pad goes down," EDN, July 9, 2009, http://bit.ly/aaFmno

※4…Dipert, Brian, “Track-pad troubles: a no-ground work-around,” EDN, July 14, 2009, http://bit.ly/b76a9S

※5…"Microchip Technology Introduces mTouch Inductive Touch-Sensing Solutions," Microchip Technology, Nov 11, 2008, http://bit.ly/cP06K4


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