検索
特集

「GPGPU」の可能性を探るゲームだけが用途じゃない!(5/5 ページ)

画像処理専用の演算ユニットとして活用されてきたGPU。これまで、その主たる用途として連想されるのは、コンピュータゲームであった。しかし、「その能力の高さを、ほかの用途にも活用できるのではないか」と考えるのは自然なことだ。この「GPGPU」の具現化 /実用化に向け、ICベンダー、EDAツールベンダーらは、どのような施策を進めているのだろうか。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

低消費電力化への対応

 GPUをGPGPUとして活用する上では、もう1つ注意すべき点がある。それは、GPUのリソースに、従来のPCIeカードを介してアクセスしていたのでは、消費電力が多くなってしまうということだ。

 PCIeカードは、もともと、グラフィックスデータの伝送に適したものとして設計されている。前出のGeForce GTS 450の場合、最大約100Wの電力を消費する。そのため、ほかのすべての高性能グラフィックスカードと同様に、独自の冷却機構を備えている。中には、ゲーム向けに最高性能のパソコンの構成を実現することを目的とし、ヒートパイプや液冷却システムなどを備えたさらに消費電力の多い製品も存在する。そのような冷却機構を付加することは、ユーザーに対して、「本格的なファンを搭載しているのだから、この製品は卓越したグラフィックス性能を持つに決まっている」というアピールにもなっているようである。このメッセージを強調し、いかにも強力そうなグラフィックス機能や、目を引くファンを追加することが、1つの戦略となっているのだ。

 MathWorks社のMartin氏が指摘するように、GPGPUの用途では、浮動小数点演算を行う際の1秒間当たりの消費電力に着目してシステム全体の解析を行う必要がある。このことについて、NVIDIA社のHuang氏は、「消費電力は、今後のシステムにおける最も重要な要素になる。1Wの電力消費によってどれだけの処理能力が得られるのかといった指標で、性能が論じられることになる」と述べている。

 Huang氏は、NVIDIA社の製品ラインの今後の計画を次のように示した。まず、Teslaに続く現行アーキテクチャのFermiでは、倍精度演算性能で見て約1.5GFLOPS/Wという値になると同氏は見積もる。同じ基準に基づき、2011年に28nmプロセスで製造開始予定の「Kepler」アーキテクチャ品は、おそらく倍精度演算性能で4GFLOPS/Wとなり、2013年の「Maxwell」アーキテクチャ品は倍精度演算性能で16GFLOPS/Wになると同氏は見込んでいる。

 自身が担当するプロジェクトにGPGPUの手法を適用したいと考える組み込みシステム設計者は、おそらくAMD社/NVIDIA社の低消費電力製品ラインのほうに高い関心を持っているであろう。

 NVIDIA社は、当初はネットブックをターゲットとしていたグラフィックス製品ファミリ「ION」を、ボードコンピュータ/組み込みコンピュータのメーカーに売り込んでいる。IONのチップには、最大で16個のCUDA対応コアが搭載される。また同社は、モバイル機器向けプロセッサとして「Tegraシリーズ」も展開している。ARM社の「Cortex-A9」を2個搭載する「Tegra 2」はタブレット機器や車載情報機器をターゲットとし、「ARM11 MPCore」を搭載する「Tegra APX」は携帯型メディア機器の市場をターゲットとしている。どちらのデバイスも、非常に消費電力が少ないマルチコアGPUを搭載している。

「APU」の登場

 一方で、AMD社は、同社初のAPU(Accelerated Processing Unit)ファミリとなる「Fusion」を市場に投入している。Fusionは、x86ベースのCPUに、AMD社の「Radeon」をベースとする GPUを組み合わせたものとなっている。低消費電力であることが要求されるノート型パソコンやネットブック向けの製品が用意されており、ATI StreamやOpenCLによってGPU機能にアクセスすることが可能となっている。

 OpenCL 1.1の発表に際し、AMD社のFusion Experience Program担当コーポレートバイスプレジデントを務めるManju Hegde氏は、「業界全体で、GPUコンピューティングへの関心が急速に高まっている」と述べている。「ベンダーは、マルチベンダー/マルチソースのインターフェースと、業界標準のプログラミングモデルを採用する必要がある。Fusionは、GPUとCPUの両方でOpenCLをサポートするために設計された。このAPUは、アプリケーションのアクセラレーションの可能性を切り開くとともに、ヘテロジニアスなコンピューティングプラットフォームを提供する」と同氏は語った。

組み込み分野への応用

 ANSYS社やAgilent社のEEsof部門といったツールベンダーにより、GPGPUは設計者にとってより身近なものとなってきた。この技術は、組み込みコンピューティングシステムのパフォーマンス改善にも利用されてきているようだ。

 Googleで「GPGPU」、「組み込み」といったキーワードを並べて検索すると、レーダー、画像処理、医療画像処理、無人航空機といった用途にたどりつくことができる。これらは、いずれも、「heavyweight」と呼ばれる応用分野である。そして、多くのコアを搭載するGPUの能力を、より広い範囲で利用するためのツールやハードウエアが存在していることもわかる。多くの場合、GPUのチップは、ボードコンピュータ、組み込みコンピュータ、デスクトップ型パソコンにすでに搭載されている。後は、マルチコアGPUを最大限、有効に活用することを可能にするソフトウエアの登場を待つばかりの状態にある。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る