電力線通信の要点:システム性能、信頼性は何で決まるのか?(4/4 ページ)
電力線通信とは、データを伝送する媒体として電力線を使用する通信技術のことである。設計中の機器に電力線通信の機能を搭載したいと思えば、すでに10社以上の半導体メーカーから電力線通信用のICを調達することができる。ただし、適切なICを選択するには、電力線通信の特性や信頼性などについて理解を深める必要がある。そこで、本稿では、電力線通信機能を利用する上で必要になる基礎知識についてまとめる。
受信器の感度
電力線の特性や負荷、通信に用いる電力線の長さにもよるが、送信器から送られたPLCの信号は、受信器に到達するまでに著しく減衰する可能性がある。高い受信感度を持つ、つまり弱い信号を高い信頼度で受信できる受信器であれば、電力線上で大きく減衰された信号をも検出することができる。これは、実効的な通信距離を延ばせるということを意味する。
しかし、受信器の高感度化が無条件に良策であるとは限らない。例えば、高感度の受信器は、本来の信号だけでなくチャンネル内に存在する微小なノイズも検出してしまう。従って、受信器が実際の信号とノイズを混同しないような仕組みを導入することが重要である。AGC(自動ゲイン制御)機能は、そのような仕組みの1つである。AGC機能を備えたPLC用ICは、信号の検出感度が常にノイズフロア以上に位置するように、ゲインを動的に調整する。このことにより、受信器は、ノイズと信号を確実に区別できるようになる。
異相間通信
建物の電力配線は、交流電源を異なる位相で利用していることが多い。例えば、2階建ての建物の場合、1階と2階で異なる位相を用いていたりすることがある。
これらの位相は、50Hzまたは60Hzの周波数で動作する交流電源のトランスによって生成される。トランスを介してPLCによる通信を行おうとすると、ほとんどのPLCの信号が50Hz/60Hzよりも高い周波数を用いていることから、PLCの信号がトランスによってフィルタリングされてしまい信号強度が大幅に減衰してしまう可能性がある。このことにより、PLC信号が同じ建物内のすべての電源ソケットに到達できないという問題が発生する。この問題は、トランスの設計にもよるので必ず発生するとは限らない。しかし、PLC信号をある位相とほかの位相との間でカップリングする技術を導入すれば、問題が発生した場合にも対応することが可能である。
このような「異相間通信」を行うための手法としては、容量性位相カップリング(Capacitive Phase Coupling)とワイヤレス位相カップリング(Wireless Phase Coupling)が知られている。容量性位相カップリングの場合、異なるトランスを用いて生成している位相の間を、PLC信号が通過できるような容量値を持つコンデンサで接続することになる。すなわち、配電盤の中などに組み込まれているトランスに手を加える必要があるため、工事費用などが発生するなどしてコスト効率の面で実現が難しい場合がある。
一方、ワイヤレス位相カップリングの場合、PLC信号は、2つのRFデバイス(それぞれ異なる位相の交流電源に接続されている)を経由してある位相からほかの位相に移動する。これら2つのRFデバイスは、互いにカップリングが可能な範囲内にある限り、その位相上の任意のソケットに接続することができる。
多くの設計者は、ワイヤレス位相カップリングであればトランスへの物理的接続を一切必要としないことから、容量性位相カップリングよりも好んで用いている。使用するPLC用ICによっては、ワイヤレス位相カップリングに関するオプション機能が合わせて提供されることもある。
システムコストの低減が必須
ここまで、PLCシステムの性能や信頼性に影響を及ぼす要因について解説してきたが、PLCが通信機器の市場で競争力を得るためには、システムコストを低減することが重要なポイントになる。設計者がPLCの機能を機器に搭載する場合、PLC用ICの価格については挑戦的に交渉する一方で、ほかの追加コストについてはあまり関心を示さないことが多い。
PLCのシステムコストは、まず、BOM(Bill of Materials)コストと開発コストに分けられる(図5)。 BOMコストには、システムを構築するのに必要なすべてのICや部品(PLCおよびそのほかの関連する機能を実現するための部品を含む)のコストが含まれる。一方、開発コストには通信プロトコルの実装、プリント基板のレイアウト設計、FCC/CENELEC/UL(Underwriters Laboratories)などが規定する規格への適合性確認の経費が含まれる。
PLCに関連する機能をできるだけ集積したPLC用ICを利用することにより、システムコストを低減することができる。例えば、PLCの送信器と受信器から構成されるモデム機能と、通信プロトコルを処理する機能を1チップに集積したICを使えば、それぞれの機能を別々のICを使用して実現する場合に比べてコストを低減できることは明らかである。また、スマートグリッド関連機器などにPLCの機能を搭載する場合には、電力の測定、液晶ディスプレイ(LCD)ドライバ、温度検知、負荷制御などの機能を1チップに集積したICを用いることにより、システムコストのさらなる低減が期待できる(図6)。
現在、さまざまな半導体メーカーが供給しているPLC用ICについては、FCC、CENELEC、UL規格に適合した参照設計に関する情報が提供されている。このことも、システムコストの低減につながる要素である。
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