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「2014年には75億台の機器市場が対象に」――ARM社が「Cortex-R」の展開を強化

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 英ARM社は、高性能のリアルタイム処理が求められる用途向けのプロセッサコア「Cortex-Rファミリ」の展開を強化している。2011年2月には、2006年に投入した「Cortex-R4」の機能拡張版となる「Cortex-R5 MPCore(以下、Cortex-R5)」と、1GHz以上の動作周波数を実現できる次世代プロダクトの「Cortex-R7 MPCore(以下、Cortex-R7)」を発表した。今後は、すでに「ARM9」や「ARM11」などが広く利用されている携帯電話機のベースバンドプロセッサやストレージ機器に加えて、ネットワーク機器、デジタル家電、産業用機器、車載機器などでもシェア拡大を図る方針である。

 ARM社は、同社が開発した命令セット「ARMv7アーキテクチャ」を利用できるプロセッサコアとして「Cortexシリーズ」を展開している。このCortexシリーズのうち、アプリケーションプロセッサ向けの「Cortex-Aファミリ」とマイコン向けの「Cortex-Mファミリ」は、さまざまな半導体メーカーが搭載製品を積極的に市場投入していることもあって広く知られている。一方、Cortex-Rファミリについては、現時点で利用可能なプロダクトがCortex-R4に限られることや、搭載製品がASICであることもあって、あまり知名度が高いとは言えない。

 このような状況にあるCortex-Rファミリを強化するべく発表されたのが、Cortex-R5とCortex-R7である。

 Cortex-R5(発表前の仮称は「Heron」)は、Cortex-R4をベースに、顧客から要求のあった機能を加えた機能拡張版という位置付けになる。Cortex-R4と比較すると、大まかに分けて2つの機能拡張が行われた。1つ目は、デュアルコアまでのマルチコア構成への対応である。ただし、このマルチコア構成でサポートしているのは、機能安全規格などに対応するために必要となるデュアルロックステップ動作だけである。処理性能の向上に必要なSMP(対称型マルチプロセッシング)動作はサポートしていない。日本法人のアームでマーケティング&ビジネスデベロップメント エンべデッドセグメントのマネージャーを務める新井相俊氏は、「Cortex-R5におけるマルチコア対応は、機能安全規格を強く意識したものだ。機能安全規格の関連では、これまで内蔵のキャッシュメモリーに限っていたECC(エラー検出訂正)機能を、外部バスまで拡張したことも挙げることができる」と述べる。

 2つ目は、周辺機能の性能向上を図るための機能の追加である。キャッシュコントローラを介さずにデータの入出力を可能にするLLPP(Low Latency Peripheral Port)や、キャッシュメモリーのメンテナンスをハードウエアで行う「Accelerator Coherency Port」などがある。また、オプションとして、単精度専用のFPU(浮動小数点演算ユニット)も提供している。新井氏は、「Cortex-R4では、単精度と倍精度の両方をサポートするFPUをオプションで提供していた。しかし、顧客からは、単精度だけでも十分という声が多かった。このため、Cortex-R5では、単精度専用のFPUを提供することにした」と説明する。

 このほかの機能や性能については、Cortex-R4とCortex-R5は基本的に同じである。例えば、プロセッサコアの処理能力は、両プロダクトとも1.66DMIPS(Dhrystone MIPS)/MHzとなっている。「Cortex-R4からCortex-R5への移行が容易になるようにしてある」(新井氏)という。

 一方、Cortex-R7(発表前の仮称は「Skylark」)は、Cortex-R5と比べて大幅な処理能力の向上を図った次世代プロダクトとなる。SMP動作をサポートするデュアルコアまでのマルチコア構成への対応をはじめ、アウトオブオーダー実行、動的レジスタリネーミング、スーパースカラ実行、除算/浮動小数点演算のハードウエアサポートなどの機能を搭載した。そして、性能向上の指標については、Cortex-R5と比べて、1MHz当たりの処理能力が50%増、最大動作周波数が25%増となっている。

 例えば、Cortex-R5の場合、40nmの低消費電力プロセスで製造した場合の最大動作周波数は480MHzであり、そのときの処理能力は約800DMIPSとなる。これに対して、Cortex-R7は、28nmプロセスで製造した場合に、最大で1GHzの動作周波数を達成できるという。このとき、デュアルコア構成であれば、処理能力は約5000DMIPSにもなる。

図1 「Cortex-Rファミリ」搭載製品の用途内訳(提供:ARM社)
図1 「Cortex-Rファミリ」搭載製品の用途内訳(提供:ARM社) ARM社による2014年時点での予測。現時点でARM社のプロセッサコアのシェアが高い、携帯電話機のベースバンドプロセッサ、ストレージ機器、汎用プリンタが全体の70%以上を占める。現在、ARM9やARM11が使われている領域もCortex-Rファミリで置き換える方針である。

 ARM社は、Cortex-Rファミリのターゲットを、高性能のリアルタイム処理能力が求められるさまざまな機器に広げていく方針である。2014年時点で、同社がCortex-Rファミリの対象とする機器の総数は75億台に上る(図1)。その市場は、すでにARM社のプロセッサコアのシェアが高い分野と、シェアが低い分野に分けることができる。

 まず、シェアが高い分野となるのが、携帯電話機のベースバンドプロセッサとハードディスクドライブなどのストレージ機器、汎用プリンタである。いわゆる第3世代(3G)携帯電話機のベースバンドプロセッサには、ARM9とARM11が広く利用されている。これらについて、より高い処理能力が求められるLTE(Long Term Evolution)を用いた第4世代(4G)携帯電話機の登場に合わせて、Cortex-Rファミリへの置き換えを目指す。また、ストレージ機器については、Cortex-R4を中心にARM社のプロセッサコアがすでに60%のシェアを獲得している。この分野でも、フラッシュメモリーを用いたSSD(ソリッドステートドライブ)などの登場により高い処理能力が求められることから、Cortex-R5やCortex-R7が利用されるようになるという。インクジェットプリンタなどの汎用プリンタも、Cortex-R4を中心にARM社のプロセッサコアが広く用いられている。ここでも、Cortex-R4から、Cortex-R5やCortex-R7への置き換えを狙う。

 シェアが低い分野、つまり「われわれが挑戦していく分野」(新井氏)となるのが、ネットワーク機器、車載機器、デジタル家電、産業用機器などである。ネットワーク機器では、同市場で圧倒的なシェアを誇る米Freescale Semiconductor社の「PowerQUICC」などに対して、高性能のCortex-R7を提案していく。また、車載機器については、Cortex-R5で注力した機能安全規格に対応可能な機能をアピールし、EPS(電動パワーステアリング)、エアバッグ、ブレーキなど、走行の安全性と関連するシステムへの展開を強化する。新井氏は、「ほかにも、車載カメラを使って車間距離や車線を検知するシステムに、Cortex-R5やCortex-R7を適用できるだろう」と述べている。

(朴 尚洙)

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