新日本無線は2011年5月、「アナログマスタースライス」のサービス提供を開始したと発表した。各種素子をウェーハ上にあらかじめ形成しておき、顧客が実現したい機能に応じて結線する(配線層のみレイアウトを行う)ことで、専用のアナログICを実現するというもの。車載機器/産業用機器/医療機器など、最終製品の生産数量が比較的少ない用途や、プロトタイプ開発の用途などを想定している。
マスタースライスとしては、トランジスタ、抵抗、コンデンサの各個別部品を集積する「トランジスタアレイ型」と、個別部品のほかに、オペアンプ回路を集積する「マクロセル型」の2種類が用意される。いずれも、1チップに集積する素子数の異なる3品種が提供される予定だ。5インチウェーハを用いたバイポーラプロセスを利用し、最大動作電圧は40V、動作接合温度は−40〜125℃という仕様になる。
このサービスを利用する場合、まず、顧客は必要となる回路を設計し、SPICEシミュレーションによって機能/特性の検証を実施する。その上で、IC用の配線レイアウトデータを用意し、新日本無線に引き渡す。配線層としては、第1アルミニウム配線と第2アルミニウム配線、両配線間をつなぐビアの3層を使用する。新日本無線は、これら3層のフォトマスクを調達してICを製造し、顧客に供給するという流れだ。
製品の納品は、基本的にはウェーハの形態で行われる。品質保証については、PCM(Process Control Module)の測定による基本的なデバイス特性の出来栄え評価と外観検査のみが行われる。ただし、ウェーハテスト、パッケージング、最終テスト、バーンインなどのサービスもオプションとして用意されている。また、LVS(Layout versus Schematic)、DRC(Design Rule Check)のレイアウト検証作業(検証処理の実行と、修正に関するアドバイス)もオプションのサービスとして提供している。
このサービスを利用するメリットの1つは、短期開発が可能になることである。「フルカスタムのICを開発する場合、回路設計から試作完了までに、最短でも半年程度はかかる。それに対し、このマスタースライスサービスを利用すれば、1.5〜3.5カ月で専用のICを入手できる」(新日本無線)という。
また、このサービスを利用すれば、開発コストやフォトマスクのコストを抑えることも可能である。「フルカスタムのICの場合、開発コスト、フルセットのフォトマスクのコスト、(試作数量のレベルの)ウェーハのコストの合算で、最低でも2000万円程度のコストがかかる。それに対し、アナログマスタースライスのサービスを利用すれば、数百万円のレベルにコストを抑えることが可能だ」(新日本無線)という。
なお、この数百万円のコストにおいては、アナログICの設計に関するサポートなどの費用が占める割合が大きい。そのため、「アナログICの設計に習熟した顧客が利用するのであれば、さらに大きくコストを抑えられるケースもある」(同社)という。
(飴本 健)
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