環境発電に適した蓄電デバイス:無線センサーの電力源の理想像を探る(3/3 ページ)
環境発電では、安定的に供給されるとは限らない自然エネルギーなどをエネルギー源として用いる。そのため、キャパシタや2次電池などを使って、電気エネルギーを貯蔵することが重要になる。本稿では、環境発電を利用するアプリケーションの例として無線センサーネットワークを取り上げ、それに適した蓄電デバイスについて説明する。
無線センサーノードの省電力化
Dave Freeman/Sriram Narayanan Texas Instruments社
図Aは、1つのネットワークとそれにつながる各センサーノードのサブシステムの関係を表したものである。導入のしやすさと設置のコストを考慮した場合、センサーノードには無線通信機能を搭載することが求められる。また、各センサーノードは、通信のオーバーヘッドを減らして応答時間を改善するために、自身が検出した値のデータを処理したり、アクチュエータを制御したりすることができるものであるべきだろう。さらに、多数のセンサーノードでの電池交換といった定期的な保守作業には相当な費用がかかると考えられる。従って、センサーノードには、収集/貯蔵したエネルギーだけを使って数年間動作すること、すなわち長い寿命も求められる。
センサーやマイクロコントローラ(マイコン)、無線通信モジュールなどの選択は、アプリケーションの性質に依存する。例えば、オフィス環境で用いるセンサーネットワークであれば、エネルギー管理やセキュリティといった機能を扱うことになるだろう。各部品には、必要な機能を実現できるものを選ばなければならない。
通常の屋内環境では、環境エネルギーの中でも光エネルギーが最も豊富である。アモルファスシリコンで構成された最近の太陽電池は、200lx(ルクス)の蛍光灯から約5μW/cm2の電力密度で電気エネルギーを生成することができる*A)。すなわち、会議室やオフィスなどの環境においては、表Aに示したような電力密度が得られることになる。この表から、各環境で、太陽電池によって10cm2当たり75μW〜125μWの電力を生成できることがわかる。
熱電発電機は温度差を基に電気エネルギーを生成する。この種の熱ハーベスタが15μW/cm3の電力密度を実現するには、約10℃の温度差が必要となる*B)。しかし、多くのアプリケーション、とりわけ屋内環境において使用されるものでは、温度の変化はそれほど大きくない。そのため、熱ハーベスタを使用できるケースは限られてしまう。
また、振動エネルギーを利用するハーベスタでは、60μWの電力を生成するのに1.75g〜2g程度の重力加速度を要するが、一般に屋内環境ではそれほどの重力加速度は生じない*C)。
収集できる環境エネルギーの量には限りがあるし、また機器に貯蔵できるエネルギーの量にも限りがある。そのため、センサーノードの低消費電力化は不可欠である。例えば、100mAhの電池と、70μWの電力を生成する太陽電池で、10年間使用するノードに必要な電力の50%を賄うと仮定して、消費電力を算出してみよう。このノードはさまざまなサブシステムを動作させるが、平均消費電力は39μW以下に抑えなければならないことになる。
マイコンや無線通信モジュール、センサー、アクチュエータといった各部品ごとに、電力と性能の関係には大きな違いがある。そのため、必要な機能を実現しつつ、システムの電力仕様を満たすには、センサーノードのサブシステムを最適に管理することが必要となる。最新の低消費電力マイコンでは、クロック周波数 1MHz当たりの消費電力が最大で345μW程度である*D)。消費電力を削減するためには、例えばマイコンの動作サイクルを1%未満に抑えるといった使い方が考えられる。
通常、センサーノードは、物理現象に関する取得情報と制御メッセージを比較的低い転送速度で送受信する。表Bに、センサーネットワークで用いられる低消費電力の無線通信技術の特徴をまとめた*E)、*F)、*G)。表中の最大電力消費量は、システム設計用の一般的なガイドラインとして示した数値である。
トランシーバ技術の進歩に伴って、その消費電力は低下する傾向にある。しかし、トランシーバのアーキテクチャを選択する際には、システムのすべての側面について検討することが重要である。例えば、無線LANトランシーバはZigBeeトランシーバよりもビット当たりのエネルギー消費量は少ないが、データ転送速度が高いので、最大電力消費量はより多くなる*H)。
センサーが使用される屋内のアプリケーションとしては、温度計や湿度計、人感センサーなどがある。最新の温度センサーや湿度センサーの最大消費電力は一般的には70μW〜80μW程度だ*I)、*J)。また、人感センサー(赤外線パッシブセンサー)の最大消費電力は、通常、100μW〜500μW程度である*K)。温度センサーと湿度センサーはゆっくりと変化する現象を検知するので、動作サイクルを長くできる。一方で、人の動きを検出するセンサーは、基本的には動作を止めることはできない。多くのアプリケーションにおいて、センサーはデータ処理や無線通信よりも多くのエネルギーを必要とする。そのため、システムの消費電力を削減するには、センサーの制御方法についての変革が必要となる。
コンピュータ技術や通信技術、センサー技術は常に進化している。にもかかわらず、無線センサーネットワークを実現する上では、センサーノードに電力を十分に供給できないことが大きな問題として残っている。エネルギーの収集/貯蔵技術の進歩によって電力供給量を増やすことはできるが、一方で、エンドアプリケーションにおける電力消費量も増え続けている。電力に関するこのギャップを埋めるためには、システムレベルの設計手法によって性能とエネルギー削減のバランスを最適化しつつ、サービス品質を確保することが求められる。実際、無線センサーネットワークを構成するハードウエア/ソフトウエアの開発現場では、システムレベル設計の手法を必要とする声が高まっている。将来の無線センサーノードは、時間の経過に伴って変化するアプリケーションの要求や利用可能なエネルギーに、自律的に適応できるようなものへと進化を遂げているだろう。
脚注
※A…"Amorphous Silicon Solar Cells/Amorphous Photosensors," Sanyo Semiconductor Co Ltd, 2007 to 2011, http://semicon.sanyo.com/en/pamph_pdf_e/EP120B.pdf
※B…Wang, WS; T O’Donnell; N Wang; M Hayes; B O’Flynn; and C O’Mathuna, "Design considerations of sub-mW indoor light energy harvesting for wireless sensor systems," ACM Journal on Emerging Technologies in Computing Systems, Volume 6, No. 2, June 2010
※C…Elfrink R; V Pop; D Hohlfeld; TM Kamel; S Matova; C de Nooijer; M Jambunathan; M Goedbloed; L Caballero; M Renaud; J Penders; and R van Schaijk; "First autonomous wireless sensor node powered by a vacuum-packaged piezoelectric MEMS energy harvester," IEEE, Proceedings of Electron Devices Meeting, December 2009, p,1
※D…MSP430F550x Mixed-Signal Microcontroller," Texas Instruments, July 2010, http://focus.ti.com/lit/ds/symlink/msp430f5500.pdf
※E…Patel, M, and Jianfang Wang, "Applications, challenges, and prospective in emerging body area network technologies," IEEE Wireless Communications, Volume 17, No.1, February 2010, p.80
※F…Lachartre, D; B Denis; D Morche; L Ouvry; M Pezzin; B Piaget; J Prouvee; and P Vincent; "A 1.1 nJ/b 802.15.4a-Compliant Fully Integrated UWB Transceiver in 0.13 Lachartre, D; B Denis; D Morche; L Ouvry; M Pezzin; B Piaget; J Prouvee; and P Vincent; "A 1.1 nJ/b 802.15.4a-Compliant Fully Integrated UWB Transceiver in 0.13 μm CMOS," IEEE, Proceedings of the International Solid-State Circuits Conference, February 2009, p.312
※G…Lai, Jie-Wei Lai; Chia-Hsin Wu; Anson Lin; Wei-Kai Hong; Cheng-Yu Wang; Chih-Hsien Shen; Yu-Hsin Lin; Yi-Hsien Cho; Yang-Chuan Chen; and Yuan-Hung Chung; "A World-Band Triple-Mode 802.11a/b/g SOC in 130 nm CMOS," IEEE Journal of Solid-State Circuits, Volume 44, No. 11, November 2009 p.2911
※H…SHT1x Humidity and Temperature Sensor," Sensirion, May 2010, http://www.sensirion.com/en/pdf/product_information/Datasheet-humidity-sensor-
SHT1x.pdf
※I…Ammer, Josephine, and Jan Rabaey, "The Energy-per-Useful-Bit Metric for Evaluating and Optimizing Sensor Network Physical Layers," Proceedings
of the Third Annual IEEE Communications Society on Sensor and Ad Hoc Communications and Networks, September 2006, p.695
※J…Acoustic Interface Design Guide, Knowles Acoustics, October 2010, http://www.knowles.com/search/pdf/2010%20Design%20Guide.pdf
※K…"Passive infrared human detection sensor with built-in amp," Panasonic Electric Works Europe LG, September 2010, http://www.panasonic-electricworks.
com/peweu/en/downloads/ds_61802_0002_en_napion.pdf
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