ARM vs. Intel:プロセッサアーキテクチャの覇権はどちらの手に?(前編):技術革新を生み出す果てなき闘争(2/3 ページ)
現在、ARMとIntelによる、電子機器に用いられるアプリケーションプロセッサのアーキテクチャの覇権を賭けた争いが激化している。ARM陣営が、Intelのx86アーキテクチャが圧倒的シェアを占めるサーバー機器/PC市場への参入を果たそうとしている一方で、Intelをはじめとするx86陣営も、ARMの縄張りとも言える携帯電話機/タブレット端末市場への攻勢を強めている。前編では、ARMアーキテクチャを推進するARMと、x86アーキテクチャを中核とした製品開発を続けてきたIntel、それぞれの取り組みについてまとめる。また、ARMのライセンシー企業であるNVIDIAが開発した「Tegra 2」について紹介する。
受けて立つIntel
ARMはさまざまなプロセッサコアの開発を進めるとともに、ライセンシー企業の数を急激に増加させつつある。さらに前述の通り、Windows 8のARMアーキテクチャへの対応が決定した。これらのARM陣営の猛攻を受けて、Intelが動揺しており、これまで牙城としていたコンピュータ市場から撤退することまで覚悟していると思う向きもあるかもしれない。
しかし、まずは、Intelがこうした攻勢にも十分に対応できる半導体製造技術に関する資産を所有していることを思い出してほしい。Intelは、ARMのライセンシー企業の多くが利用するファウンドリと同等以上の製造プロセス技術や、複数の製造工場から成るネットワークを持っている。また、Intelの幹部は、2010年9月に、「Atomの製造プロセスは15nmまで微細化させる」と明言した。
当初Intelは、Atomをチップセットと組み合わせて用いるCPUタイプの製品には45nmの製造プロセスを採用していた。一方、これらのAtomと対になるチップセットの製造プロセスは90nmだった。現在のAtomは、チップセットの機能を一部取り込んだSoCとしてさらに集積化されている。Atomの最新製品である、携帯電話機向けの「Medfield」とタブレット端末向けの「Oak Trail」の製造プロセスは32nmまで微細化されているのだ。また、Oak Trailは、MicrosoftのOS「Windows 7」から認識することができるPCI(Peripheral Component Interconnect)バスもサポートしている。
Intelは2009年6月に、Nokiaとモバイル機器向けプラットフォームの開発で提携した。そして、2010年2月には、両社がそれぞれ開発していたLinuxベースのモバイル機器向けOSを統合した「MeeGo」を発表している。しかし、その1年後の2011年2月、NokiaはMicrosoftとの提携を発表し、それまで採用してきた「Symbian」とMeeGoを打ち捨てて、「Windows Phone 7」をスマートフォンのOSに採用する方針を明らかにした。このため、IntelとNokiaの提携関係は窮地に追い込まれている。
それでもなお、Intelの幹部はMedfieldを搭載した携帯電話機の2011年内の量産について自信を示している。また、多くの電子機器メーカーが、MicrosoftのOSとほかのOSが両方動作する、Oak Trailを搭載したタブレット端末のデモを公開している。
もはや、民生用機器では命令セットの互換性はあまり重要ではなくなりつつあるようだ。対応する必要のあるファイル形式の種類が集約されて少なくなったこともあるし、OSとは無関係にこれらの形式のファイルを扱えるアプリケーションの種類が増えたこともその要因となっている。また、最近は、クライアント側のハードウェアではなく、「クラウド」にアプリケーションとデータの両方を保存する傾向が強くなっていることも背景にある。
とはいえ、x86アーキテクチャについては、ソフトウェア開発者にとって命令セットの互換性は依然として重要なようである。ソフトウェア開発者は、開発済みの機能や開発ツールを可能な限り再利用したいと考えているからだ。Intelだけでなく、AMDとVIA Technologiesも、x86アーキテクチャに基づく低消費電力を特徴とする製品を積極的に開発していることも忘れてはならない。AMDは2010年9月に発表した低消費電力が特徴のプロセッサコア「Bobcat」を、グラフィックス機能も集積するプロセッサ製品「Fusion」に採用した。VIAも、デュアルコアCPUである「Nano X2」を開発している。
「Windows 8」がもたらすもの
こうした状況のなか、MicrosoftのWindows 8が、x86アーキテクチャだけでなく、ARMアーキテクチャにもサポートを広げることの意味を熟慮しておくべきだろう。Microsoftが、この取り組みを通して、PC、携帯電話機、タブレット端末などのOSをWindowsに集約して行くとともに、同社の組み込みOSである「Windows CE」を実装した製品(Windows Phone 7もWindows CEベースのプラットフォームである)が姿を消していったとしよう。このとき、ARM陣営のプロセッサベンダーは、それまで牙城としていた携帯機器の市場で、Windows 8とともに市場に攻勢をかけてくるであろうx86アーキテクチャのプロセッサ製品との厳しい争いに直面しているかもしれない。
それに、x86陣営のベンダーが、ARM陣営でも活躍する可能性も否定はできない。Intelは、「Xscale」をMarvellに売却した2006年半ばに、ARMにライセンスを返却している。しかし、2010年8月にInfineon Technologiesの無線通信部門を買収したことによって、再びARMアーキテクチャのライセンスを取得した。VIAも、ネットブックなどのモバイル機器向けにARMアーキテクチャを用いたSoCを開発している。
IntelとVIAが開発するARMアーキテクチャを用いたICは、両社が展開するx86アーキテクチャの製品と相反するように見えるかもしれない。しかし、他社のARMアーキテクチャ製品と争うよりも、自社の内部で競争させる方が良いというのも正当な考え方かもしれない。もし、ARMアーキテクチャ製品がプロセッサの出荷量のシェアでトップになったとしても、IntelとVIAが大手のARMプロセッサベンダーとして名を連ねているかもしれないのだ。
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