ARMは2011年10月、アプリケーション処理用プロセッサコアの新プロダクト「Cortex-A7 MPCore(以下、Cortex-A7)を発表した。これまで「Kingfisher」という開発コードで呼ばれていたものである(関連記事)。Cortex-A7のライセンシー企業として、Broadcom、Freescale Semiconductor、HiSilicon、LG Electronics、Samsung Electronics、ST-Ericsson、Texas Instrumentsの7社が名乗りを上げている。
Cortex-A7は、インオーダー実行による分岐予測が可能なパイプラインを8段備えるプロセッサコアである。シングルコア構成だけでなく、2〜4個までのマルチコア構成もサポートしている。命令用/データ用のL1キャッシュの容量はそれぞれ32Kバイトで、最大4メガバイトのL2キャッシュもコアに内蔵する。28nmプロセスで製造した場合、1GHz以上の動作周波数を実現することが可能。このとき、1コア当たりの占有面積は0.45mm2となっている。
処理能力については、DMIPS/MHz表記などでの数値は公開されていない。ただし、45nmプロセスで製造した動作周波数が1GHzの「Cortex-A8」コアの処理速度に対して、28nmプロセスで製造した動作周波数が1GHzでシングルコアのCortex-A7の処理速度は、低消費電力の動作モードで比べると5倍以上となる(図1)。また、パフォーマンス重視の動作モードの時でも1.2倍程度になる。なお、全般的な消費電力の性能については、2009年11月に発表した低消費電力性能を特徴とする「Cortex-A5」と同等だとしている。
メモリシステムは、ロードストアパスをCortex-A5の2倍となる64ビットに拡大し、TLB(Translation Look-aside Buffer)のエントリ数をCortex-A5や「Cortex-A9」の2倍となる128個に増やした。また、128ビットのAMBA(Advanced Microcontroller Bus Architecture) 4インタフェースも搭載している。これらにより、スマートフォンでWebブラジングを行う時など、大きめのデータ容量を扱う際の処理速度を高めることができる。
Cortex-A7の用途は2つに分かれる。1つは、100米ドル未満という低価格のスマートフォンのプロセッサ製品への搭載である。先述の比較にある通り、Cortex-A7は現行のスマートフォンで広く利用されているCortex-A8と同等以上の処理能力が得られる。そして28nmプロセスで製造すれば、チップ上の占有面積を45nmプロセスで製造したCortex-A8コアの約1/5に低減できる。このため、低コスト化を図る余地は十分にある。
もう1つの用途は、ARMのアプリケーション処理用プロセッサコアで最も性能が高い「Cortex-A15」をメインプロセッサ、Cortex-A7をサブプロセッサとして用いる「big.LITTLE処理」構成である(図2)。この構成では、Cortex-A15が“big”プロセッサ、Cortex-A7が“LITTLE”プロセッサとなる。big.LITTLE処理では、電力管理ソフトウェアを使用して、処理するタスクに適切なプロセッサコアを選択する。プロセッサコアの切り替えにかかる時間は約20μsである。このように高速の切り替えが可能なのは、Cortex-A15とCortex-A7が、メモリシステムに128ビットのAMBA 4インタフェースを搭載しているからだ。また、これら2種類のプロセッサは、アプリケーションソフトウェアからは同一のプロセッサとして認識される。
big.LITTLE処理の狙いは、Cortex-A15を用いるスマートフォンやタブレット端末向けプロセッサ製品の消費電力を大幅に低減することだ。ARMによれば、Cortex-A15のみ搭載するプロセッサと比べて、Cortex-A15とCortex-A7を連携させるbig.LITTLE処理を用いるプロセッサは、搭載機器の電池寿命を1.7倍に伸ばすことができるという。
(朴 尚洙)
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