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計測器を故障から守る、取り扱いの注意点を伝授(3/3 ページ)

計測器は電子機器の開発や製造に欠かせないツールであると同時に、それ自体が極めて精密な電子機器でもある。取り扱いに注意しなければ、正しい測定結果が得られなかったり、故障してしまったりする危険性があるのだ。本稿では、信号発生器とオシロスコープ、ネットワーク・アナライザについて、発生件数の多い故障とその原因、そして防止方法を解説する(EDN Japan編集部)。

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ネットアナの損傷レベルを意識する

 ネットワーク・アナライザの取り扱いに起因した故障の多くは、大電力を扱うパワー・アンプを被測定物として評価する際に発生する。ネットワーク・アナライザの許容入力電力(損傷レベル)を超える大電力の信号がパワー・アンプから出力された場合に、パワー・アンプの出力端子を接続した測定ポート(ポート2)を損傷してしまうのだ。

 例えば、パワー・アンプの入力端子に接続した測定ポート(ポート1)の出力電力が0dBmだとしよう。仮にパワー・アンプの利得が30dBだとすれば、ポート2には30dBmの電力が印加される(図5)。損傷レベルが30dBmのネットワーク・アナライザであれば、故障してしまう危険性が高い。

図5 ポート2の印加電力を管理
図5 ポート2の印加電力を管理 (a)は、ネットワーク・アナライザの故障原因として多い、ポート2の損傷メカニズムである。パワー・アンプを被測定物として評価する際に、ポート2に許容入力電力(損傷レベル)を超える過大な電力が印加されてしまう。これを防ぐには、(b)に示すように、ポート2の手前にパワー・リミッタを取り付けておく。ポート1の出力電力やパワー・アンプの利得を考慮した上でパワー・アンプの出力に減衰器(アッテネータ)を挿入した場合でも、リミッタを取り付けた方が安全だ。

 これを防ぐには、測定ポートに印加する電力が損傷レベルを超えないように、測定システム全体を管理する。通常は、最大でも損傷レベルを6dB下回る値に抑えることを目安にすればよい。例えば、損傷レベルが30dBmの場合は、測定ポートへの印加電力が24dBm以下になるようにする。

 最も簡単な対策方法は、ネットワーク・アナライザの設定を変えて、ポート1の出力電力を低く抑えることだ。しかし、これはあまり現実的とはいえない。第1に、被測定物はパワー・アンプであり、従って大信号特性を測定しなければ意味がないからだ。利得圧縮特性を測定するためには、比較的大きな電力の信号を供給する必要がある。

 第2に、パワー・アンプの利得が未知の場合は、ポート1の出力電力をどの程度まで下げれば安全なのかを判断できない。極めて低く設定し、徐々に高めていく方法もあるが、この場合は出力電力の設定を変更するたびに校正(キャリブレーション)作業が必要になり、面倒だ。

 第3に、ポート1の出力電力をいくら低く設定していても、パワー・アンプそのものに不具合があれば、想定以上に大きな電力の信号や直流電圧がポート2に印加されてしまう危険性がある。

 現実的な対策方法は、パワー・アンプの出力端子とネットワーク・アナライザのポート2の間に、通過電力を一定値以下に制限するパワー・リミッタを挿入することだ。これによって1〜2dB程度の挿入損失が発生するものの、その影響は校正によって取り除ける。

校正キットの破損を防ぐ

図6 コネクタの挿抜に注意
図6 コネクタの挿抜に注意 ネットワーク・アナライザでは、校正用標準器のコネクタの破損も多い。原因を(a)に示した。被測定物に接続するオス型コネクタを校正用標準器のメス型コネクタにつなぎ替える際、寸法精度の違いが原因で、メス型の中心導体が割れてしまう。(b)は、こうした原因で破損したコネクタの例である。一番上は正常な中心導体で、下の2つが破損した中心導体だ。

 ネットワーク・アナライザではこのほか、機械式校正キット(キャリブレーション・キット)の取り扱いにも注意してほしい。一般に校正キットには、開放(オープン)、短絡(ショート)、負荷(ロード)などの標準器が用意されている。ネットワーク・アナライザの測定ポートと被測定物をつなぐコネクタにこれらの標準器を順番に取り付けて、校正を実行する。注意してほしいのは、標準器のコネクタを挿抜する作業だ。標準器のメス型コネクタの中心導体を破損してしまうことが多いからである(図6)。

 挿抜で中心導体が破損する原因はこうだ。標準器は一般に、高い再現性を確保するために、機械的な寸法精度が高いコネクタを採用している。外部導体の直径が3.5mmのいわゆる「3.5mmコネクタ」が多い。ところが被測定物と測定ポートをつなぐオス型コネクタとして寸法精度が比較的低い「SMAコネクタ」を使うと、校正の際に3.5mmコネクタにSMAコネクタを接続することになってしまう。

 両者は機械的には嵌合(かんごう)するものの、寸法精度は大きく異なる。従って、3.5mmコネクタの中心導体にSMAコネクタの中心導体を挿し込んだ際に、3.5mmコネクタの中心導体を破損させてしまう危険性がある。さらに、寸法精度の異なるこうしたコネクタ同士の挿抜を繰り返すと、3.5mmコネクタの中心導体がSMAの中心導体に引っ張られることで、所定の位置からずれてしまう場合がある。しかも、こうした取り扱いによって破損した3.5mmコネクタを別の正常な3.5mmコネクタに接続すると、正常なコネクタまでも破損させてしまう危険性がある。

図7 コネクタを傷めない接続方法
図7 コネクタを傷めない接続方法 コネクタを傷めないように、確実に接続する方法を示した。まず(a)のように、コネクタ同士の中心軸が重なるように保持しながら、両コネクタの中心導体を接合させる。次に(b)のように、ボディ部を固定しながら、ナット部のみを回転させて接続する。最後に、(c)のようにトルク・レンチを使って規定のトルクで締め付ける。

 こうした破損を防ぐには、まず第1に、寸法精度が異なるコネクタ同士を接続しないことである。ただし校正

作業においては、測定ポートにSMAコネクタを利用する場合が多い。そこでこの場合は、標準器の3.5mmコネクタを保護する変換アダプタ(いわゆるコネ

クタ・セーバー)の使用を推奨する。例えば標準器がメス型の3.5

mmコネクタを備えている場合は、3.5mmコネクタのオス−メス変換アダプタやオス−オス変換アダプタを取り付けておき、測定ポートのSMAコネクタは

この変換アダプタに接続するわけだ。もちろんSMAコネクタを接続することで、変換アダプタの中心導体が破損する危険性はある。だが、標準器のコネクタに

比べて、修理費用は安く済む。

 破損を防ぐ第2の方法は、挿抜作業時にコネクタを丁寧に扱うことだ(図7)。具体的には、2つのコネクタの中心軸が重なるように保持して、その軸をずらさないように注意しながらコネクタ同士を接近させ、オス側の中心導体をメス側の中心導体の中央部分に滑り込ませる。次に、ねじが斜めにかまないように注意しながら、コネクタのナット部を回転させて接続する。このときコネクタの胴体(ボディ)部は回らないように固定しておく。ボディ部と中心導体は一体化されているため、ボディ部が回転すると中心導体に機械的な回転力が加わり、破損を招くからだ。

 破損したコネクタによる2次的な被害を防ぐためには、コネクタの中心導体が所定の位置からずれていないかどうかを定期的に測定して確認することを推奨する。この測定にはコネクタ・ゲージと呼ぶ測定器を使う。異常を確認した場合は直ちに使用を中止し、メーカーに修理を依頼してほしい。

さらに詳細な情報も入手可能

 本稿では、計測器の取り扱いに起因した故障を防ぐ方法を解説した。ただしここで紹介したのは、入門的な情報である。計測器メーカーは通常、適切な取り扱いについてさらに詳細な情報を「推奨事項」などと呼ぶ文書にまとめて、ウェブサイトで公開している*1)

 使用経験のない計測器を扱う場合や、実施経験のない測定を手掛ける際には、面倒でもこうした文書に目を通してほしい。故障を未然に防ぐことで、無駄なダウン・タイムを回避できる。

(初出:EE Times Japan 2007年12月号「Tips & Tricks」、pp.63〜74、著者の所属は当時のものです)


脚注

※1…例えばアジレント・テクノロジーは、高周波ネットワーク・アナライザを使った大電力パワー・アンプの測定における推奨事項を作成し、ウェブサイトにてPDF形式で公開している。以下のURLで閲覧可能だ。http://cp.literature.agilent.com/litweb/pdf/5989-1349JA.pdf


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