自己消費が135mWと低いデジタル制御電源用IC、500kHzスイッチングに対応:新日本無線 NJU20300
新日本無線がデジタル制御電源用ICの新製品を発表した。数百Wクラスの小型電源で利用できるように、kWオーダーという比較的大電力の電源向けの従来品よりも自己消費電力を大幅に低減している。
新日本無線は2011年12月、従来品に比べてパッケージ寸法と自己消費電力を低減したデジタル制御電源用IC「NJU20300シリーズ」を発表した。プリンタ複合機をはじめとするOA機器や、携帯電話の基地局など、電源回路の定格が比較的小さく、実装サイズの小型化が求められる用途に向ける。
NJU20300シリーズは、マイコンと数値演算性能の高いDSPの特徴を合わせたハイブリッド型DSPを中核に、デジタル制御電源を構築する際に不可欠な出力電圧監視用のA-D変換器や大電力スイッチング素子の駆動用PWM信号生成器を集積したICである。同社はこうした回路構成のICをデジタルシグナルコントローラ(DSC)と呼んで製品化しており、2010年7月に第1弾となる「NJU20010/NJU20011」を市場に投入していた。
ただしこの従来品は、「キロワット(kW)オーダーの比較的大電力の電源を用途として想定していた」(同社)。そのためDSC自体の消費電力は無視できた。ところがこれをOA機器や携帯電話基地局などに組み込む数百Wクラスの比較的小型の電源に適用しようとすると、DSC自体の消費電力が無視できない大きさになってしまう。具体的には、従来品のDSCは自己消費電力が230mW程度あり、さらにDSCの電源電圧を生成するために外付けするLDO(Low Drop Out)レギュレータの消費電力も加味すると、合わせて270〜280mWの電力を消費していたという。
そこで今回の新製品では、LDOを内蔵するとともに、DSC自体の消費電力を135mWまで低減した。内蔵DSPのクロック周波数を従来品の62.5MHzから30MHzまで引き下げることで、低消費電力化を実現したという。ただ、クロック周波数を単に引き下げただけでは、デジタル信号処理性能も低下してしまう。DC-DCコンバータのフィードバックループの処理に要する時間が増大し、従来品のスイッチング周波数を維持できない。そこで同社は、A-D変換器の速度を従来品の2Mサンプル/秒から6Mサンプル/秒と3倍に高めた。A-D変換に要していた時間を短縮できるので、DSPの処理時間が増大した分を相殺できる。
実際に、電源のスイッチング周波数については従来品と同等水準を達成できるという。理論的には最大1MHz、割り込み処理などを考慮した現実的な値としては500kHz程度のスイッチング周波数に対応可能だと説明しており、「海外の半導体ベンダーの製品も含めて、同様のDSCの中では最速だ」(同社)と主張する。
パッケージ寸法については、9.0×9.0×1.5mmの48端子LQFP封止品「NJU20300」を用意しており、実装面積を従来品から約75%削減した。この他、6.0×6.0×0.9mmの36端子QFL封止品「NJU20301」も用意している。パッケージの小型化に加えて、2品種ともに、D-A変換器付きコンパレータや、発振回路、前述のLDOレギュレータを新たに集積しているため、電源回路全体としてはさらなる小型化が見込めるという。
NJU20300はサンプル出荷を2012年2月、量産を同6月に開始する。NJU20301はそれぞれ同1月、4月の予定。サンプル価格は2品種ともに400円である。
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