太陽のエネルギーが電力網につながるまで、PVインバータ「Sunny Boy」に学ぶ:製品解剖(1/3 ページ)
SMA Solar Technologyの太陽光発電用パワーインバータ「Sunny Boy」を分解し、アーキテクチャ設計や構成部品の選定ポイントに迫る。さらに、太陽の光が電気エネルギーとして電力網につながるまでの流れを追いながら、太陽光発電システムの一般的なエネルギー変換処理についても説明する。
低炭素社会の実現に向けた取り組みなどを背景に、太陽光発電システムの需要が世界的に高まっている。本稿では、ドイツのSMA Solar Technologyの太陽光発電用パワーインバータ「Sunny Boy」を分解し、アーキテクチャ設計や構成部品の選定ポイントに迫る。Vishay Intertechnologyが供給するEMI(電磁放射雑音)抑制用コンデンサから、Texas InstrumentsのDSP、そして絶縁に使われているAvago TechnologiesのMOSFETゲート駆動用フォトカプラについても取り上げて解説する。
さらに、太陽電池パネルで受けた太陽の光が電気エネルギーとして電力網につながるまでの流れを追いながら、太陽光発電システムにおける一般的なエネルギー変換処理についても説明する。太陽の光を太陽電池パネルで捉えて直流(DC)電力に変換した後、インバータでDC-AC変換を施して交流(AC)電力を出力し、それを電力網(グリッド)につなげるまでの流れである。
こうしたエネルギー変換システムの設計において、安全性やその他の性能の規格を満たすにはどのような機能が必要なのか。そして、グリッドにつながる電気エネルギーに対して電力会社が求める厳しい要件に応えるには何が必要なのか。それらについても解説しよう。
インバータ基板を分析
一般に太陽光発電システムは、光起電力(Photovoltaic:PV)効果を利用して太陽光を電気に変換する太陽電池パネルや、機械的/電気的な接続や取り付けに用いる機構部品、DC-AC変換を担うインバータといった複数の要素で構成される。これらのうちインバータは、太陽電池で生成した電力をグリッドに送り込むために欠かせない重要な要素である。図1に、典型的な太陽光発電システムの全体的なブロック図を示した。
図1 太陽光発電システム全体のブロック図 太陽電池パネルの他、その出力を蓄えるバッテリや、AC電力に変換して電気機器やグリッドに供給するインバータなど、複数の要素で構成されている(クリックで拡大)。出典:Texas Instruments
太陽光発電用インバータ(以下、PVインバータ)の主な機能は、太陽電池パネルやバッテリから取り出される電圧が不安定なDC電力を、所定の電圧と周波数のAC電力に変換し、さまざまな電気製品に給電するとともに、グリッドに電力を供給することである。このAC電力の出力条件は国や地域によって異なり、北米では60Hzの115V、ヨーロッパではほとんどの地域で50Hzの230Vになる。
それでは実際のPVインバータを見てみよう。冒頭で述べた通り、本稿では製品のサンプルとしてSMA Solar TechnologyのSunny Boyシリーズを分解し、インバータ基板を取り出した(図2)。この基板は、Sunny Boyシリーズのうちトランスレス(変圧器を使わない)タイプの機種である「3000TL」と「4000TL」、「5000TL」に使用されているものだ。なお、これら3機種の定格出力は、それぞれ3kW、4kW、4.6kWである(いずれも50Hz、230Vにおいて)。
図2 SMA Solar TechnologyのPV用インバータ「Sunny Boy」シリーズの基板 インバータのデジタル制御を担うTIのデジタルコントローラや、高電圧のパワーMOSFETのPWM駆動とコントローラ回路との電気的な絶縁を受け持つAvagoのゲート駆動用フォトカプラの他、ノイズ抑制用コンデンサやコモンモードフィルタといった部品で構成されたフィルタ回路などが実装されている(クリックで拡大)。
このインバータ基板は、マルチストリングの太陽光パネル用として2系統の独立したDC-ACコンバータを備えており、これらを活用すれば複雑な構成の発電システムを簡単に構築できる。インバータ基板のDC入力部は図2の左下の領域に実装されている。2系統のDC入力それぞれには、フィルタ回路が設けられている。このフィルタ回路は、VishayのEMI抑制用コンデンサ「MKP339 X2」(PDF形式のデータシート)や、コアに2本の巻き線を施したコモンモードフィルタ、昇圧コンバータの出力を平滑化するために用意されたKemetのコンデンサ「MKPC4AEシリーズ」(PDF形式のデータシート)の15μF品などからなる。
このほかDC入力部には、2個のリレーが配置されている。図2の左上の領域だ。これらのリレーは、IT機器のACシステムにおけるIEC 61557‐8規格に従って絶縁抵抗をモニタリングする用途に使う。すなわち、システムの電力ラインとアースとの間の絶縁抵抗を計測する役割を果たす。計測用のDC信号を注入し、それによって発生する電流の大きさを読み取って、絶縁抵抗の値を計算する。その計測値があらかじめ設定しておいたしきい値を下回ると、リレーが誤動作側に切り替わって出力を遮断する仕組みだ。なお電流の計測には、図2中でも確認できるホール効果素子を扱う。
SMA Solar Technologyのこのインバータ基板で特筆すべき特徴の1つは、能動素子と受動素子ともに非常に品質の高い部品が採用されており、PVインバータとしての高信頼化と高性能化が追求されていることだ。
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