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デジタルオーディオで押さえるべき基本 〜高分解能とハイサンプリングの意義とは〜デジタルオーディオの基礎から応用(2)(3/3 ページ)

今回は、デジタルオーディオで誤解されている幾つかの基本を取り上げます。デジタルオーディオを表現する「量子化分解能」や「サンプリング周波数」の意味や、高分解能とハイサンプリングがもたらす効果、オーディオ再生システムの中核を成すD-A変換部の出力スペクトルに含まれる各成分について、理解を深められるはずです。

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D-A変換出力の実際

 デジタルオーディオの再生システムで重要な役割を担うD-A変換部は、採用するD-AコンバーターICの素性(特性)によって、アナログ出力特性が大きく異なる。ΔΣ変調器をベースにしたオーディオ用D-AコンバーターICを用いる限り、ΔΣ変調による量子化雑音(量子化ビット数により決定される理論量子化雑音とは異なることに注意)は避けられない。

 図6に一般的なD-AコンバーターICのアナログ出力信号の模式図を示した。ここでは、基準信号周波数を1kHzとし、サンプリング・レート、fs=48kHzとしている。図6に示したアナログ出力信号のスペクトルに含まれる各成分は以下の通りである。

図
図6 D-AコンバーターIC出力のスペクトルの模式図 (クリックで拡大します)

高調波成分

 D-AコンバーターICが理想動作していたとしても、ICの非直線性により再生信号に対して高調波を発生する。一般的にこの高調波成分の大きさは「THD+N(Total Harmonic Distortion+Noise)特性」として規定されている。図6においては、2次と3次、4次の高調波を模式的に示した。当然、D-AコンバータICのグレードによりTHD+Nの値は異なり、0.01%程度のものから0.001%未満の高性能のものまで数多くの種類がある。

帯域内量子化雑音

 ΔΣ変調器による量子化雑音は、帯域内と帯域外(一般に、20kHz以上の周波数帯域)に区別しなければならない。20kHz未満の帯域内の量子化雑音はD-AコンバーターICの実動作時の雑音であり、ICのダイナミックレンジ特性を決定する。ここでの注意点は、コンバーターICのPCM入力信号の量子化ビット数についてである。これが24ビットの場合は、コンバーターICの雑音レベルは24ビット理論量子化雑音レベル(−146dB)より大きいので問題ないが、16ビットの場合はICの雑音レベルより16ビット理論量子化レベル(−98dB)の方が大きい。つまり、いくら優れたICを用いていても16ビット理論量子化レベルによって雑音フロアの値は制限されることになる。

帯域外量子化雑音

 ΔΣ変調器は量子化雑音エネルギーを帯域外にシフトさせることにより、帯域内量子化雑音レベルを小さくしている。従って、一般的には20kHz以上の帯域外で雑音レベルは急激に増大する傾向がある。ただし、100kHzを超える帯域ではD-AコンバーターICのLPF機能により雑音レベルは低減する傾向にある。

サンプリング・スペクトラム

 D-AコンバーターICに内蔵したデジタルフィルタ機能により1×fs〜4×fs間のサンプリング・スペクトラムは除去される。この除去レベルはデジタルフィルタの阻止帯域の減衰量特性に依存し、汎用グレードの品種では60dB程度、高性能グレードの品種では120dB以上のものもある。コンバーターICの品種によりその減衰量は大きく異なるので注意が必要だ。前述の帯域外雑音量との相対関係で、帯域外雑音の方が大きければサンプリング・スペクトラムはマスキングされてしまう。帯域外雑音と同様に100kHz以上の帯域ではICのLPF機能によって減衰する傾向になる。 

 D-AコンバーターICのアナログ出力回路では、上記の事象を検証して最適なポストLPF処理を実行しなければならない。次回は、デジタルオーディオを評価するさまざまな特性の定義や、評価/テスト方法を紹介しよう。


Profile

河合一(かわい はじめ)

 オーディオを専門とした評論家、ライター。日本オーディオ協会会員、AES(Audio Engineering Society)正会員。

 山水電気に1976年4月に入社。サービス部や技術管理部などでオーディオ機器および電子回路の設計、半導体評価といった基礎・応用技術の開発に携わる。1985年1月に日本バーブラウンに転職し、高精度リニアーICのアプリケーションエンジニアを担当した。業界トップクラスの性能のアナログIC(オペアンプ、計測アンプ、絶縁アンプ、対数アンプなど)や、コンバータICの応用技術と高精度アナログ信号処理技術を取得。1980年代後半以降、デジタル・オーディオ用コンバータICの専任となり、多くのデバイス開発に携わる。アプリケーションエンジニアマネジャーとして全世界の顧客対応を担当した他、フィールドアプリケーションエンジニアに対する技術トレーニングも実施。

 Texas InstrumentsがBurr Brownを買収したことに伴い、2001年1月に日本テキサスインスツルメンツに移籍。デジタル・オーディオ用コンバータ製品のアプリケーションマネジャー、オーディオ・エキスパートとしてシステム/アプリケーションの開発支援業務を幅広く担当した。これまでに、オーディオ関連の技術資料や技術記事を多数執筆。2009年6月にフリーランスの評論家、ライターとして活動を開始した。



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