デジタルオーディオ特性の基本 〜THD+N/ ダイナミックレンジ/ SN比/ 周波数特性〜:デジタルオーディオの基礎から応用(3)(1/3 ページ)
第3回となる今回は、デジタルオーディオの特性を詳しく解説しましょう。「THD+N特性」や「ダイナミックレンジ特性」、「S/N比」、「周波数特性」といった内容の理解を深めることができます。
本連載では、身の回りの多くのオーディオ機器に採用されている「デジタルオーディオ」に焦点を当て、オーディオシステムを学び、開発する上で押さえておくべきポイントを解説します。
アナログオーディオとデジタルオーディオの違いや概略を解説した第1回に続き、第2回ではデジタルオーディオを表現する「量子化分解能」や「サンプリング周波数」の意味、高分解能とハイサンプリングがもたらす効果、オーディオ再生システムの中核を成すD-A変換部の出力スペクトルに含まれる各成分について紹介しました。第3回となる今回は、デジタルオーディオの特性を詳しく解説しましょう。「THD+N特性」や「ダイナミックレンジ特性」、「S/N比」、「周波数特性」といった内容の理解を深めることができます。(EDN Japan 編集部)
分かっていそうで分かっていない!? オーディオ特性とは何か
オーディオ特性とは、オーディオ用ICおよびオーディオ機器における電気的な特性全体の一部である。一般的には「Specification」、すなわちスペック、仕様として規定/表示されるものである。ICの一般的な電気的特性の規定項目は非常に多種多様である。ただ、オーディオ機器やデジタルオーディオ機器においては、電気的特性の主要スペックはオーディオ再生に関わるものにある程度限定されるのがほとんどである。
本連載の第3回は、デジタルオーディオにおけるオーディオ特性について、その定義や測定法、スペックの正しい理解の仕方、音質との関係などについて解説する。
アナログ、デジタルに関わらずオーディオ機器の特性を表わすスペックのうち、オーディオ特性は当然のことながら最も重要なものである。ここで言うオーディオ特性とは、再生アナログ(オーディオ)信号に対するものであり、各フォーマットで規定されたデジタル領域での理論特性とは明確に区別しなければならない。オーディオ特性を理解する際の予備知識として、次の各項目について理解しておかなければならない。
- オーディオ特性は再生アナログ(オーディオ)信号の品質や精度を表わす
- フォーマット(24ビット分解能、fs=192kHzなど)ごとに規定されたデジタル領域の理論精度ではない
- 特性名称が同じであっても、アナログオーディオとデジタルオーディオで定義・測定法の異なるものがある
- CDプレーヤーの登場により旧EIAJ(日本電子機械工業会)にて測定法が規格化され(現在では JEITA規格CP-2402A)、基本的な測定法と定義が定められている。また、デジタルオーディオ機器の測定方法(CP-2150)も規格化されている
- スペック表示は通常Typical(標準)値であるが、最小値または最大値が重要なものもある
- 特に記述の無い限り、周囲温度Ta=25℃における値が規定されている
それでは、「THD+N特性」や「ダイナミックレンジ特性」、「S/N比」、「周波数特性」といった、各オーディオ特性について1つ1つ見ていこう。
「THD+N特性」
THD+N特性は、正確には「Total Harmonic Distortion + Noise(全高調波歪み率+雑音)特性」で、「歪み率」や「高調波歪み」といった表現が使われるケースもある。オーディオ特性の中でも最も音質との相関が高く、非直線性に起因する精度を表わす重要な特性である。
再生信号は素子/回路伝達特性の非直線性によって、2次、3次、4次……の高調波が発生する。同時に熱雑音やショットノイズなどの雑音も加わることになる。これら高調波の総合(通常は7次〜9次程度まで)である全高調波(THD)と雑音(N)との総合がTHD+Nという指標で定義される。図1にTHD+N特性のスペクトル表示での概念を示す。
デジタルオーディオでは、測定帯域を20kHzに帯域制限する。実際には、20kHzまでを通過帯域とし、24kHz以上の周波数では−60dBの減衰特性を有する測定用LPFを用いて測定するのが標準である(20k〜24kHzの間はLPFの過渡的な遷移領域)。このLPFはデジタルオーディオ特有の――アナログオーディオでは必要としない――帯域外のサンプリングスペクトラムとΔΣ変調ノイズを完全に除去することが目的である(前回の図6を参照)。これは後述するダイナミックレンジ特性や、S/N比特性の測定にも適用される。
THD+N特性は代表値として、周波数1kHz、出力0dB(フルスケール)におけるものがカタログなどに記載されるのが一般的であるが、対信号周波数や対信号レベルをパラメーターにした評価も重要である。また、音質との相関や素性を把握するにはTHD+N総合値におけるTHD成分とN成分の比率(歪み感とノイズ感の聴感上の違いも存在する)も重要になる。
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