専用プロセッサとしてのDSPの特徴:イチから学ぶDSP基礎の基礎(2)(3/3 ページ)
今回は、専用プロセッサとしてのDSPの特徴と、DSP出現の背景、DSPと汎用CPUの違いについて解説します。
ペリフェラル回路のないDSP
回路規模の大きい乗算器を搭載した代償としてTMS32010は現代の小規模な組み込み用プロセッサにも備わっているタイマ/カウンタやシリアルポートを持っていません。
ペリフェラル回路としては外部バスとピンを共用したI/Oポートを備えているのみです。A/D・D/Aコンバータはここに接続することになります。そのほかには最低限の割り込み機能を有しているだけです。このような周辺回路の制約も、当時としては回路規模の非常に多い乗算器を搭載したことからきています。
NMOS回路とCMOS回路の比較
一般的に、ディスクリート半導体では電界効果型トランジスタ(Field Effect Transistor)は略してFETと呼び、バイポーラ・トランジスタとは区別することが多いようです。
しかしLSIの分野では特にこのような区別をすることはなく、FETも単にトランジスタと呼びます。以下の説明でも特に断りなくMOS FETをトランジスタと称します。デプレッション型トランジスタはゲート電圧が0Vでもドレイン電流が流れます(常時オン)。
一方、エンハンスメント型トランジスタはスレッショルド電圧VTHよりもゲート電圧が高いときだけドレイン電流が流れます(ゲート電圧VGの値によりスイッチング動作する)。
また、複数のNMOSゲート回路が存在する場合には、確率的にその半分は出力Lの状態で、大きな電流(負荷抵抗を通して電源・グランド間に流れる電流)が流れます。つまり、NMOS回路は消費電流・消費電力が大きい負荷抵抗ということです。
図10 NMOSインバータのスイッチング動作
入力がHのとき、エンハンスメント型トランジスタはオン負荷抵抗を通して電源・グランド間に大きな電流が流れる。入力がLのときは、エンハンスメント型トランジスタはオフ電源・グランド間に電流は流れない
ただし、現実はオフしているトランジスタのリーク電流や、H→LあるいはL→Hへのスイッチング時に流れる貫通電流(NMOS、PMOSトランジスタが両方ともオンになる瞬間に流れる電流)があるために、完全に消費電流が0になるわけではありません。
しかしCMOSは、NMOS回路よりもはるかに低消費電流・低消費電力です。つまりCMOS LSIはNMOSと比較すると消費電力の制約が少ないので、回路の大規模化に向く(NMOSではパッケージが許容する消費電力に回路規模が厳しく制約される)NMOSのTMS32010にも、後からリリースされたCMOS版のTMS320C10があり、動作速度も若干向上しています。
ただ、最近ではLSIの集積度が非常に大きくなっているので、CMOS LSIでも消費電力の問題を避けられなくなってきています。
次回は、引き続きDSPとほかのプロセッサの比較として、パソコン用プロセッサ、組み込み用MPU、FPGAとの違いをお話しします。
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