夢の薄型テレビ、大型有機EL:いまさら聞けないデジタル技術の仕組みを解説(1/3 ページ)
次世代フラットパネルディスプレイとして注目を集める有機ELディスプレイ。今回は、有機ELが発光する原理からディスプレイの構成、製造方法について基礎をまとめる。
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有機ELとは〜発光原理〜
有機EL(OLED:Organic light-emitting diode)は、主原料である有機材料に電流を注入することで発光する(自発光の)半導体素子です。有機材料は電流が注入されると一時的に電子エネルギーが活性化した励起状態になり、この状態から元の基底状態に復帰(エネルギーが安定化)する際に熱と光を発生します。これが有機ELの発光原理です。この際の発光過程には「蛍光」と「リン光」という2種類の発光現象があります(ここでは発光原理に特化して説明するため、有機材料(高分子材料/低分子材料)」の違いについては後ほど紹介します)。
蛍光は基底状態に戻る際に25%が光、75%が熱に、リン光は100%が光に変わります。よって、一定の電流量を流したときの電流発光効率はリン光の方が蛍光よりも4倍(理論値)ほど良いといわれています。ただし、リン光は励起状態になった後、一度中間状態を経由するため(画像1を参照)、青色の波長が見えにくい(青色が発光できない)とされています。一方、蛍光は励起状態から直接、基底状態に戻るため、青色の波長が見えやすいという特長があります。
なお、応答時間(発光までの時間)を見ると中間状態を経由するリン光の方が蛍光よりもやや長くなりますが、いずれにしても1ミリ秒に満たないほどの短時間で発光します。次の章でも触れますが、応答時間が約10〜100ミリ秒といわれている液晶ディスプレイと比較すると、有機ELは格段に速いことが分かります。
ディスプレイ用途として見た有機ELの可能性
ディスプレイ用途として考えた場合、有機ELは自発光なのでバックライトが不要なことから、薄型・軽量化が容易です。また、高コントラストで視野角が広く、応答速度が速くて低消費電力という特性から、もしも大型化が実現できれば、まさに理想的なテレビ向けディスプレイだとして長年期待されてきました。唯一の課題として挙げられているのは寿命が短いことです。
画像2 有機ELディスプレイの性能(ディスプレイ用途として見たときの液晶/プラズマとの比較) 液晶(透過型)は非常にバランスが良いディスプレイ。年々性能の向上が進んでいるが、視野角の狭さや暗所コントラストの低さが課題だといわれている。プラズマは自発光ディスプレイなので、暗所コントラストや視野角は優れている。しかし液晶の強みである明所コントラストや精細度の高さ、消費電力の面でまだまだ克服すべき点がある。それに対して有機ELは寿命以外の項目については、どの性能を見てもポイントが高い。これからいかに寿命を延ばしていくかというのが、テレビに向けた取り組みで1番の開発課題であると考えられている
前にプラズマと液晶の違いを教えてもらったときには、自発光のプラズマはサイズや視聴するコンテンツ(映像シーン)によって消費電力が違うから、バックライトを利用する液晶との比較は一概にはいえないってことだったけど、有機ELも自発光でしょ? 1番良いって言い切れるの?
確かにね、自発光という部分では有機ELもプラズマと一緒だけど、有機ELはリン光を使用した場合にプラズマよりも発光効率が高くなるんだ。プラズマの発光原理は基本的に蛍光だから、エネルギーの多くを熱に変えてしまうという発光効率の悪さは蛍光の有機ELと同じ。さらに蛍光の有機ELの場合でも、発光層でエネルギー消費率を高めることができるから、本質的には有機ELが最も消費電力が低いといえるんだよ。
さらに言うと、現状よりももっと効率の良いリン光材料がでてきたら、見ている映像に関係なく、有機ELの方が液晶よりも圧倒的に消費電力が低くなる。
へぇ。じゃあ、材料次第で有機ELはもっと性能が良くなるんだね。
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