誤解していませんか!? クロックジッターの「真実」を解説:デジタルオーディオの基礎から応用(5)(2/3 ページ)
第5回では、デジタルオーディオのクロックジッターに焦点を当て、その定義や測定法、オーディオ特性との関係について詳しく解説する。「クロックジッター」と一言で表現しても、クロックとジッターには多くの種類がある。オーディオ特性への影響を評価する際には、「どのクロック」の「どのようなジッター」かをきちんと説明できることが大切だ。
“クロックジッター”の種類は主に3つ
次にクロックジッターには、どのような種類があるか解説する。ジッターには幾つかの表現方法が存在する。デジタルオーディオにおける基本的なクロックジッターの概念を図3に示す。理想クロック周期はtpであるが、実際には周期が短くなったり(tj1)、長くなったり(tj2)する不確実性が存在し、理想値からの偏差(Δtj)がジッターである。ジッターには、次の3種類が存在する。
・タイムインターバル・ジッター
クロックの理想タイミング・ポイント(立ち上り/立下り点)からの誤差
・ハーフピリオド・ジッター
クロックの理想半周期(half period)からの誤差
・ピリオド(周期)・ジッター
クロックの理想周期(period)からの誤差
このうち、D-A変換性能に直接影響するジッターは、ピリオド(周期)ジッターである。さらには、周期をカウントするにはクロックの立ち上がりエッジ間周期を採用する場合と、立下りエッジ間周期を使う場合があるが、D-A変換性能に影響を与えるのは立ち上がりエッジ間の周期ジッターである。
すなわち、デジタルオーディオにおいて「クロックジッター」を表現する場合は、「オーディオマスタークロックの立ち上がりピリオド(周期)ジッター」であることを明確にしなければならない。立ち上がりである理由は、一般的なD-AコンバータICの変換精度に影響するクロックは、立ち上がりタイミングのみで決定されていることによる。一方、SPDIFの伝送クロックのジッターはIEC規格またはAES/EBU規格において「UI(Unit Interval)」の単位で、USBインタフェースにおける伝送クロックのジッターは「USB Specifications」でそれぞれ規格化されている。
ジッターの「定義」と「測定法」を押さえよう
デジタルオーディオのクロックジッターを表現する時に曖昧に表現されているのが、ジッターの「定義」と「測定法」である。物理量である限り「単位」が存在し、時間軸要素である限りその基本単位は「秒」であることは間違いないが、その規定(定義)と測定方法は複数存在する。いずれのジッター測定も被測定クロックを特定時間(特定クロック数)サンプリングすることで実行される。
・ヒストグラム測定
クロック周期の理想値に対する各クロックの偏差をヒストグラムで測定。その標準値(RMS値)とピーク値で数値を表示する。測定にはタイムドメイン・アナライザーや、デジタルオスロスコープとジッター解析ソフトを組み合わせて使用。測定例を図4に示す。
・アイパターン測定
クロック遷移点をデジタルオシロスコープなどで重ね描きし、その遷移点の時間幅を読み取って測定する。測定例を図5に示す。
・位相ノイズ測定
クロックの時間軸不確定を位相不確定要素として、専用の位相ノイズ測定器を使って「位相ノイズ量対周波数」のグラフで表示する。
・スペクトラム(FFT)測定
被測定クロックをスペクトラム(FFT)解析により、その「振幅軸スペクトラム対測定帯域周波数」のグラフで表示する。代表的なものに「SPDR(Spurious Free Dynamic Range)」と呼ぶグラフがある。
これらのジッター測定法(定義)において、D-A変換特性(オーディオ特性)と最も相関性が高く、仕様(スペック)として単純に数値化できるのは、ヒストグラム測定によるものである。実際、ほとんどのクロック製品(クロックモジュールなど)ではジッター特性にヒストグラム測定値を使っている。すなわち、デジタルオーディオにおけるクロックジッターとは、「オーディオマスタークロックの立ち上がり周期ジッターで、ヒストグラム測定による実効値(RMS)またはピーク値で規定されるものである」とまとめることができる。
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