演算能力
DSPの演算能力はカタログ上ではMIPS値やFLOPS値で表記されることが多いようです。演算器を複数内蔵したDSPは演算器の数だけMIPS値やFLOPS値が大きくなりますが、あらゆる演算についてカタログスペックどおりの演算能力が得られるわけではありません(常に複数の演算器が効率よく並列動作するとは限りません)。実際のアプリケーションでどれだけの処理性能が得られるかは、評価ボードやシミュレータを使ってあらかじきちんと評価しておく必要があります。
I/Oのスループット
高周波信号処理や画像処理、オーディオでも多チャネル処理をする場合にはDSPの演算能力は十分でも、I/Oのスループットがボトルネックとなることもあります。DSPはその演算能力に応じた強力なI/Oを持っていますが、実質的なI/Oのデータ転送レートが外部に接続するデバイスによって制約される場合もあります。I/Oの能力に関しても外付けのA/D・D/Aコンバータやメモリ、制御用のCPUと組み合わせた状態で所望の性能が得られるかどうかの検討が必要です。
DSP選択のポイント
「ユーザーを選ぶ」特定用途向けDSP
先に説明したモータ制御用DSPには性能・機能さえ見合うならばほかの用途にも使用できるある程度の汎用性がありますが、逆に製品が「ユーザーを選ぶ」DSPもあります。
例えばDSPとRISC CPUの2つを1チップに統合した製品や、マルチメディア機器向けにVIDEO用A/D・D/Aとのインターフェイスを備えているDSPなどです。これらの製品は主に生産数量の多い民生機器向けとして販売されています。DSPコアの機能は汎用であっても専用の開発ツール・評価ボード類が高価であることが多いので、誰もが気軽に使えるDSPではありません。
また、これらの製品向けの特定アプリケーション用開発ツールはDSPメーカーが直接提供しているのではなく、(海外の)サードパーティ(3rd party)のメーカーが販売しているケースが多いことにも注意が必要です。基本的にこのようなDSPは、製品の製造原価の要求は厳しいけれども専用ツールに対してコストを掛ける余裕のある量産品を作っている大口顧客向けの製品と考えた方がいいと思います。
モータ制御用DSPの用途
モータ制御用として販売されているDSPがありますが、DSPコア自体に特別な設計がなされているわけではありません。基本的に汎用のDSPコアにモータ制御のアプリケーションに適したA/D、D/A、タイマ/カウンタなどのペリフェラルを組み合わせたものです。内蔵A/D・D/などの仕様が合えば、モータ制御以外のアプリケーションに使っても問題はありません。
最近は32bit演算のモータ制御用固定小数点DSPも販売されています。これはその処理性能を生かし、モータ制御だけでなく従来16bit固定小数点DSPを使って倍精度演算を行っていたアプリケーションにも使用できる可能性があります(高品位のデジタル・オーディオ、ロボット制御など)。
近年のDSPは価格・性能ともにローエンドからハイエンドまで非常に幅広い製品群があります。その用途もDSPの登場初期よりも大きく広がっています。使用するアプリケーションに応じて適切なDSPを選んで使用してください。
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