アプリケーションノートをうまく使う、あえてチェンジニアになる戦略も有効:英文データシートを“読まずに”活用するコツ(7)(2/2 ページ)
“チェンジニア”はあまりイメージの良くない言葉ですが、特に電源回路の設計では「あえてチェンジニアになりきる」のも有効な技です。アプリケーションノートに記載された参照回路から自分の仕様に近いものを探し出し、それを元に出力電圧を変えたり、電流制限用のセンス抵抗の値を調整したりして設計を完成させるという手法です。
エンジニア? いいえ、チェンジニアですが、何か?
回路設計や評価でいろいろと忙しいエンジニアの皆さん、ちょっと手抜きして効率よく回路設計できればうれしいですよね!? そんなときは、“エンジニア”から“チェンジニア”に変身です!
一般に、電子回路におけるチェンジニアとは、自分自身の知識や経験で回路を新規に設計する力が足りず、既存の回路を流用し、部品の定数を変更して特性を調整する程度の業務しかこなせないような技術者を揶揄(やゆ)するニュアンスの表現です。あまり良いイメージの言葉ではないかもしれません。
しかし、エンジニアの力を持った技術者が、あえて一時的にチェンジニアに変身するのは、十分に“アリ”な戦略なんです。特に、電源回路の設計ではこの戦略が有効です。というのも、DC-DCコンバータなどの電源回路は設計ごとにいろいろな要件があるかと思いますが、既存の参照回路の中からその要件に近いものを探し出して流用するという手法が、設計の作業効率を上げる(手抜きともいう!?)の最初の一歩になるからです。
例えば、こんなケースを考えてみましょう。8Vの入力電圧から20V、1Aの出力を作り出すことができ、軽負荷時に高効率で外部同期に対応可能という要求仕様を満たすような電源ICが欲しい。でも、出力電流の仕様は最終的にはこれより増加するかもしれない……というケースです。さて、どうしましょう?
いずれにしても、まずは電源ICの選択ですよね。出力電流が増加する可能性を考慮すると、スイッチング用のパワーMOSFETを内蔵したタイプではなく、ICに外付けするタイプが対象になるでしょう、半導体メーカーのWebサイトにあるパラメトリック検索機能を使って、MOSFET外付けタイプで絞り込んだところ、下記のような結果が出ました。
この検索設定では、「MAX15004」「MAX15005」「MAX668」「MAX669」という品種が候補になるようです。
しかし、これだけでは、軽負荷時に高効率を実現する技術を取り込んだ品種かどうかは分かりません。とりあえず、各品種の製品情報ページに進んで、「軽負荷時」という言葉を検索してみましょう。するとMAX668/669の方だけヒットする箇所がありました。なるほど、こちらの製品は、軽負荷時に高効率を実現する技術を採用しているようです。では、この品種を有力候補にしましょう。
続いてデータシートを見てみます。もちろん、この品種の特性を正確に把握する目的もありますが……自分の要求仕様と同じような回路図が載ってないかを調べてみましょう! 「あれ? アプリケーションノートの話しどこにいったんだ?」。はい、ご指摘はごもっとも。ですがここはあえて英語版のデータシートを参照します。なぜなら、回路図を見るだけなら、最新の情報を参照した方が得策であり、一般にデータシートの方がアプリケーションノートよりも早く、最新の情報が反映されるからです。
実際にこの製品のデータシートを見てみると……ありました! 11ページ目の図4(Figure 4)に、想定する仕様に比較的近い回路が示されています。ですが、入力電圧(VIN)が3〜12V、出力電圧(VOUT)が12Vで1Aという仕様ですから、想定している「VINが8V、VOUTが20Vで1Aかそれ以上を供給」という仕様とあらためて突き合わせると微妙に距離がありますね。
さぁ、お待たせしました! ここでアプリケーションノートの登場です。半導体メーカーのWebサイトではたいていの場合、製品個別の情報をまとめたページの中に、関連するアプリケーションノートやその他の技術資料へのリンクを用意しています。そちらをクリックしてみましょう。
いま検討している電源ICの場合、下図のように、数多くのアプリケーションノートが紹介されていました。
ただ、これらのアプリケーションノートですが、表題を見ただけではなかなか、自分の求める情報が載っているかどうか判断しにくいものです。そんなときは、ちょっと力技ですが、全部開いてしまいましょう!
お使いのPCがWindowsベースでWebブラウザがInternet ExplorerかGoogle Chromeなら、便利な方法があります。「Ctrl+左クリック」で、押したURLがそれぞれ新規タブで開きます。ずらっと並んだリンクを上から下まで、ダダダダダ……と連打していけば、全て開くことができます。そして、開いたページ1つ1つをざっと眺めて、表題と回路図だけをチェックして、情報が求めているものかどうかを見極めます。
今回のケースでは、全てをチェックしたところ、想定する仕様に最も近いのは、「High-Efficiency Boost Converter Provides 24V for DTE」という題名のアプリケーションノートでした。この資料にある回路図は、VINが12V、VOUTが24Vで3Aを供給する仕様です。後は、この回路をベースに、出力電圧を変えたり、電流制限用のセンス抵抗の値を調整したりして、自分の仕様に近づけていきましょう。
これがチェンジニアの基本技です。ただし、このようなチェンジニアへの変身は回路を検討するときのみ効果を発揮します。単なるチェンジニアだけでは、回路のレイアウトや本質的な動作のメカニズムについては理解が及ばず、不具合の原因を作り込んでしまいかねません。そこでは、ちゃんとエンジニアに戻る必要があります。もし理解が足りないな〜と感じる場合は、後日にあらためてデータシートを見て、勉強しておいたほうがよいでしょう!!
Profile
赤羽 一馬(あかばね かずま)
1995年に日系半導体メーカーに入社。5年間にわたって、アナログ技術のサポート/マーケティングに従事した。2000年に外資系アナログ半導体メーカーのマキシム・ジャパンに転職。現在は、フィールドアプリケーション担当の技術スタッフ部門でシニアメンバーを務めている。
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