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低振幅・低周波のセンサー出力を扱う、アナログ信号調節の最新テクニックアナログ設計(1/5 ページ)

現実世界の物理量を検出するセンサーの多くは、検出結果を振幅が小さく周波数が低いアナログ信号として出力する。それを処理するには、直流(DC)付近で利得と精度がいずれも高いアナログ信号調節(シグナルコンディショニング)回路を後段に設ける必要がある。本稿では、センサー出力の処理に向けたアナログ信号調節技術の最新状況を解説する。

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 現代のセンサーは、現実世界の様々なアナログ物理量を検出する。温度や力、圧力、湿度、流量、電力などである。出力の形態には、電圧や電流、電荷、抵抗値といったアナログ信号と、0/1のデジタル信号がある。いずれの場合も出力の大きさは、外界からセンサーに加わる刺激の強さに比例することが多い。

 センサーの中には、電源が不要で単体で動作するタイプもある。その他のセンサーは、電圧源あるいは電流源といった電源からエネルギーを受け取って動作する。

 一般に、センサーの出力を後段で利用できるようにするには、何らかの信号調節回路が必要だ。信号調節回路はセンサー自体に搭載される場合もあれば、外部に実装する場合もある。信号調節回路の形態は単一ではなく、様々なバリエーションが存在する。そこで本稿では、現在のアナログ電子回路で使われている最新の信号調節技術を解説しよう。

高精度オペアンプのゼロドリフト補正

 高精度オペアンプの需要が拡大し続けている。そうした高精度オペアンプにおいて、急速に普及しつつあるのが自動補正回路だ。自動補正回路とは具体的には、オフセット誤差を常に補正して最小化する回路を指す。

 高精度オペアンプICを供給する半導体メーカーの多くは、自動補正を「ゼロドリフト」と呼ぶ。Microchip Technologyの製品マーケティング部門主任エンジニアであるKevin Tretter氏によると、オフセット誤差の自動補正回路には「オートゼロ方式」と「チョッパ安定化方式」がある。オートゼロ方式は広帯域オペアンプに適しており、チョッパ安定化方式は低周波帯あるいは直流で使うオペアンプに向く。

 オートゼロ方式ではメインアンプの他にセカンドアンプを用意して補正を実施する。メインアンプは入力端子につながる増幅器だ。補正に関わるのはセカンドアンプの方で、セカンドアンプ自体のオフセットを常に補正しつつ、補正信号をメインアンプに入力する仕組みである。Microchip TechnologyのオペアンプIC「MCP6V01」は、オートゼロ方式を採用しており、メインアンプのオフセット誤差を毎秒1万回の頻度で補正する。その結果、極めて低い値にオフセットとドリフトを抑え込んでいる。

 チョッパ安定化方式も、メインアンプと補助アンプを使う点は同じだ。広帯域のメインアンプは入力端子につながる。補助アンプはスイッチによって入力信号をチョッピングし、メインアンプに補正信号を与える。例えばMicrochip Technologyの低消費電力オペアンプIC「MCP6V11」は、チョッパ安定化方式を採用することでオフセットとオフセットに関連する誤差を最小化している。

 内部動作は異なるものの、オートゼロ方式とチョッパ安定化方式の目指すところは同じである。オフセットとオフセットに起因する誤差をなるべく小さくすることだ。これらの補正回路によって初期のオフセットが小さくなるだけでなく、時間経過と温度変動に対するオフセットのドリフトも抑えられる。また、同相信号除去性能と電源電圧変動除去性能を高める効果も得られる。そして1/f雑音も低くなる。

精密質量計の信号調節

 Analog Devicesのアプリケーションエンジニアリング担当マネジャーであるReza Moghimi氏は、「現実世界の物理量を検出するセンサーの多くは、振幅が小さく周波数が低い電圧信号を出力するため、直流付近で高利得かつ高精度な信号調節回路が必要だ」と指摘する。そのようなセンサーの用途には、精密電子測長、ロードセル、ブリッジトランスデューサ、サーモカップル/サーモパイル式のセンサー用インタフェース、医療用の高精度計測などがある。

 信号調節回路に高精度でない一般的なオペアンプを使用すると、オフセットやそのドリフト、1/fノイズによる誤差が発生する。このため、ハードウェアあるいはソフトウェアによる較正(キャリブレーション)が必要になる。

 Moghimi氏は、高精度な信号調節回路の例を幾つか示す。ゼロドリフトアンプを使った回路だ。ゼロドリフトアンプはオフセットとドリフトが極めて低く、オープンループ利得が高く、電源電圧変動除去性能に優れ、1/fノイズがない。システム設計者にとっては、較正が不要というメリットがある。

 図1は、単一の電源電圧で動作する精密質量計の回路図である。ΔΣ方式の24ビットA-D変換IC「AD7791」と、ゼロドリフトアンプIC「ADA4528-x」を使う。Analog Devicesが設計したこの回路は、同社のテストによると9.5〜120Hzの周波数範囲でロードセルからのフルスケール出力10mVに対し15.3ビットのノイズフリー・コード分解能を備える。

図1
図1 単一の電源電圧で動作する精密質量計の回路図 ΔΣ方式の24ビットA-D変換IC「AD7791」と、ゼロドリフトアンプIC「ADA4528-x」を使う。出典:Analog Devices (クリックで画像を拡大)

 A-D変換ICであるAD7791の前段に挿入する差動アンプとして使われているのが、2個のゼロドリフトアンプIC「ADA4528-x」である。ADA4528の主要特性を以下に示す。1kHzでの電圧雑音密度が5.6nV/√Hz、オフセット電圧が0.3μV、オフセット電圧ドリフトが0.002μV/℃、同相信号除去比が158dB、電源電圧変動除去比が150dBである。

 差動アンプの利得は1+2R1÷RGで与えられる。抵抗R1およびR2、それらと並列に配置されたコンデンサC1およびC2により構成されたローパスフィルタが、雑音帯域を4.3Hz以下に制限し、A-D変換ICのAD7791に入力される雑音の量を減らす。C5とR3およびR4がカットオフ周波数8Hzの差動フィルタを構成しており、雑音をさらに低減する。C3とR3の組み合わせと、C4とR4の組み合わせによって、コモンモード除去フィルタを形成してある。カットオフ周波数は159Hzである。

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