電流ブースト回路の落とし穴:Wired, Weird(2/3 ページ)
今回は5V電源の電流ブースト回路が起因する動作不良として、古いプリンタの修理事例を説明する。資料も回路図もない状態から故障原因を探っていくと、電流ブースト回路の意外な弱点が見つかった。
モーター制御がおかしい
文字の印字間隔が狭くなったり広くなったり、ヘッド送りが止まったりすることで文字が重なっているようだ。原因として、印字時に電源電圧が正常値から大きく変動してしまい、正しいモーター制御ができなくなったためと推測できた。
まずは電源部の回路を確認した。図3に電源部の写真を示す。
AC100VがトランスでAC30VとAC10Vに変換され、その電源が制御基板へ供給されていた。AC30Vは全波整流されてDC30Vになり、モーター及びプリンタのヘッドの駆動用電源に使用されていた。AC10Vも全波整流されてレギュレータでDC5Vが生成され、CPUの電源となっていた。電解コンデンサの容量を測定したが80%以上の残量があり問題はなさそうだ。
配線長30cm!?
5Vレギュレータは図2の中央部のコネクタを通してトランジスタに接続されていた。これは電流ブースト回路のようだ。ブーストトランジスタの写真を図4に示す。
電流ブースト付の5Vレギュレータは緑色のパッケージのトランジスタ「2SB688」(図4左下)と基板実装のレギュレータの「2405」で構成されていた。しかし、トランジスタの配線は30cmと長い。この配線の長さが気になった。なお、図4右側のモーターはプリンタの紙送りモータだ。
トランジスタのコネクタを外し、電流ブーストなしで通電してみたら、レギュレータがかなり熱くなり、出力のDC5Vの電圧が3V程度に下がっていたので、急いで電源を切った。やはり電流ブースト回路だった。電流ブースト回路の参考回路例がルネサス エレクトロニクスのwebに資料があったので図5に示す。
図5の回路では、PNPトランジスタでレギュレータに流れる電流を監視し、5Vの負荷が0.1A程度流れると入力抵抗(6Ω)の電圧が約0.6V低下し、PNPトランジスタがオンして、電流ブーストトランジスタが電源側から出力側へ電流を流すように動作している。なお、この回路には電流制限機能はない。
このブースト回路は5Vの負荷が重くなってもレギュレータの出力電圧を維持するように動作する。
トランジスタがレギュレータの近くに配線されていれば動作に問題なさそうだが、さて、今回のように放熱のためブースト用のトランジスタの配線が長くても問題ないだろうか?
配線長は影響するのか?
まず、電源投入時の5Vの波形を確認してみた。図6に電源投入時の電圧波形を示す。
図6でCH1(青色の線)は5V電源の波形で、CH2(紫)はモーター用のDC28Vの電源である。特に気になるのが、CH1の立ち上がり後の発振波形である。電圧が立ち上がった後に1V程度の大きなリップル波形があり、その後も小さなリップル波形が見える。
この電源の立ち上がり波形で5Vの負荷変動が増幅されてしまい、大きなリップル電圧が発生していることが分かった。負荷安定後もリップル電圧が約300mVあった。プリンタの印刷時に5Vの負荷が変動すると、5V電圧も大きく変動し、CPUが正常に動作できなくなる可能性が高い。5V電源安定後のリップル波形を図7に示す。
DC5Vで300mVのリップルはMPUの動作保証スペックをオーバーしており、回路動作が不安定になる可能性が高い。
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