部品選定から低電圧/高電圧回路測定まで:覚えておきたい「電源測定」のきほん手順(1)
電源設計に求められる要件は、多くなっています。高効率/高電力密度、迅速な市場投入、規格への対応、コストダウンなどを考慮せざるを得ず、電源設計におけるテスト要件も複雑化しています。そこで、本連載では、3回にわたって、複雑な電源設計プロセスの概要と、プロセスごとのテスト要件について説明していきます。
効率に優れ、安価で小型の電源を設計するエンジニアへのプレッシャーは、以前にも増して強くなっています。電源は、全ての電気製品、電子機器を支えるライフラインです。しかし、高効率/高電力密度、迅速な市場投入、規格への対応、コストダウンなど、設計エンジニアには純粋な設計以外にも強いプレッシャーがかかっています。考えなければならないことは数多くありますが、ここでは3つの章に分けて、複雑な電源設計プロセスの概要と、プロセスごとのテスト要件について説明します。
パラメータ以上の特性を得る必要
部品/デバイスメーカーは設計エンジニアに対し、電源設計で必要な動作特性を含む、詳細なデータシートを提供しています。多くの場合、データシートで得られるパラメータのみから判断して部品を選択します。しかし、昨今の電源設計では、より厳格な仕様が増えてきたため、部品のデータシートに書かれているパラメータ以上の特性を得る必要が生じてきました。
MOSFET、IGBT、ダイオードなど、重要なパワーデバイスを扱う場合、「最適化された重要なパラメータ」を選びます。最適化された重要なパラメータとは、オンステート、オフステートまたはAC特性です。次に、データシートに書かれている理想的な条件よりも厳しい、全ての温度レンジでコンポーネントをテストします。最後に、現実の条件で受動/能動部品をテストします。
試作での測定、まずは低電圧から
設計サイクルの次のステップがプロトタイピング(試作)です。プロトタイプには不良が付き物です。回路基板の配線、ハンダ接合、部品配置などの不良、見つけにくい寄生成分など、さまざまな要因で不良になることがあるため、慎重に進める必要があります。電源投入前には、デジタルマルチメータを使用して全ての入出力段に短絡がないことを確認します。次に、低電圧のアナログ/デジタル回路をできる限り細かなサブ回路に分離し、プロトタイプのサブ回路ごとに電源を入れます。
オンボードの電源を切り離し、負荷のある、なしで出力をテストします。次に、出力電圧とリップルが期待通りであることを確認します。最後に、プレシジョンDC電源を使用して個々の低電圧サブ回路に電源を供給します。オンボード電源だけに頼ってはいけません。オンボードの電源がマルチ出力の場合は、図1に示すような、複数の絶縁されているチャンネルを持ったDC電源の使用をお勧めします。
現場でチェックする場合、プログラムされた設定と実際の測定出力が同時に表示できるDC電源を使用すると、DC段から大きな電流が流れていないことを素早く確認できます。
高電圧AC回路の電源投入
低電圧回路チェックの次は、高電圧回路に電源を入れます。ここで初めてプロトタイプに高電圧が印加されることになります。初めて電源を投入する場合、低電圧段から高電圧段を切り離します。電流制限機能の付いたAC電源が有効です。常に低いAC電圧から始めることで、ハンダ不良、配線不良、またはプリント基板の設計不良による破裂などを回避できます。
致命的な不良がなかったとして、適切な定格の差動プローブ、電流プローブでAC入力の電圧、電流を測定します。初めて電源を投入する場合、オシロスコープまたはパワーアナライザを使用し、電源を入れる前にログ機能をオンにしてAC入力のインラッシュ電流とトランジェントを取り込みます。高電圧電力段のチェックが終わると、低電圧制御回路を有効にすることで全体として機能させます。
今回は、部品/デバイスの選択、特性評価、低電圧DC回路、高電圧AC回路のテスト方法について説明しました。やらねばならない作業はまだまだあります。次回、第2章では、デジタル/アナログ制御回路のデバッグ、パワー段のスイッチング特性、スイッチング/導通損失テスト、仕様チェックについて説明します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 思わぬ過電圧にも備えて安心、ダイオード利用の保護回路
オペアンプICに個別トランジスタを“ちょい足し”して性能を高めたり機能を拡充したりできる定番回路集。今回は、過大な入力電圧からオペアンプを守る、ダイオードを使った保護回路を紹介しましょう。過電圧の危険は、アナログ信号処理回路のいろんなところに潜んでいます。どうぞご注意を! - 進化したオシロスコープを使いこなせる、 真のエンジニアになろう
電子機器や組み込み機器などの開発において欠かすことのできないオシロスコープについて、その操作方法や概念をあらためて解説します。 - いまさらだけど電気・電源についておさらいしよう
【超入門記事です】電源の良しあしは、回路全体の動作の安定性や精度を左右する……。本連載では、電気のお話からはじまり、電源、電源回路の基本的な考え方と、その設計に必要となる基礎知識についてイチから解説する。 - 交流を直流に変換する「AC-DC電源」のきほん
コンセントにつなぐ電気製品になくてはならないAC-DC電源。ノートPCやスマートフォンのアダプタなどで身近に使用している割に、その仕組みを知らない人は多い。そんなAC-DC電源の必要性や方式の基本を紹介する。