メッシュネットワーク技術「TSCH」とは:産業用IoTで注目を集める(3/5 ページ)
無線でセンサーデータを収集する必要のある産業用IoT(Internet of Things)。そうしたワイヤレス・センサー・ネットワーク(WSN)を構築する上で、TSCH(Time Synchronized Channel Hopping:時間同期チャンネルホッピング)と呼ばれるメッシュネットワーク技術が注目を集めている。TSCHとは、どのような技術なのか――。詳しく紹介していく。
時刻同期チャネル・ホッピング・メッシュ・ネットワーク
時刻同期チャネル・ホッピング(TSCH)メッシュネットワークでは、マルチホップネットワーク全体の正確な時刻同期を使用して、通信と周波数チャネルを綿密に制御します。TSCHネットワークでは、各ノードはネットワーク全体において数十マイクロ秒以内の精度でそろった時刻を共有します。各ノードは隣接するノードとタイミングの誤差の情報を交換することによって同期を維持します。
ネットワーク通信は、各パケットの送受信のスケジュールが設定されているタイムスロットで行われます。各タイムスロットの長さは、送信側ノードが起動し、パケットを送信し、受信側ノードからの確認応答を受信するのに十分な長さに設定されています(例えば、7.25ミリ秒)。TSCH内の通信は動的スケジュールが可能なため、ペア単位のチャンネルホッピング、パスダイバーシティーおよび周波数ダイバーシティー、低電力パケット交換、そして効率の高いデューティーサイクリングを実現します。
ペア単位のチャンネルホッピング
時刻同期により、送信機−受信機の各ペア上でチャンネルホッピングを行えるようになり、周波数ダイバーシティーが実現します。TSCHネットワークでは、避けることのできない無線干渉やフェージングを回避するため、パケット交換チャネルはすべてホッピングされます。さらに、さまざまなデバイスペア間の複数の送信をさまざまなチャネル上で同時に行えるため、ネットワーク帯域幅を広く取れます。例えば、ISM帯のグローバルな利用可能性により、WSN実装でよく選択されるIEEE 802.15.4ベースの2.4GHz無線仕様には、15個の使用可能チャネルがあります。つまり、シングルチャンネルIEEE802.15.4 WSNと比較すると、1つのTSCHネットワークあたりの有効帯域幅は最大15倍になるのです。
パスダイバーシティーおよび周波数ダイバーシティー
各デバイスは、干渉、物理的障害物、あるいはマルチパスフェージングによる通信遮断を避けるために、冗長化されたパスを備えています。パケット送信があるパスで失敗すると、モートは次に利用できるパスおよび別の無線チャンネル上で自動的に再送信を試みます(図2参照)。パスダイバーシティーと周波数ダイバーシティーとをそれぞれ再送信時に活用することで(時間ダイバーシティー)、その成功確率はシングルチャンネルシステムよりも高くなります。
低電力パケット交換
TSCHを使用すると、スケジュールされた通信の合間に、ノードは超低消費電力でスリープ可能になります。各デバイスは、パケットを送信する場合、もしくは隣接デバイスからのパケットを受信する場合のみアクティブになります。より重要なのは、各ノード自身がいつ起動すればよいかを把握しているため、隣接するノードからの情報を常にリレーできるということです。そのため、TSCHネットワークは多くの場合、ネットワークを完全に使用可能な状態に維持したまま、1%未満のデューティーサイクルを実現します。さらに、各パケット処理がスケジュールされているため、TSCHネットワークにはネットワーク内でのパケット衝突がありません。トラフィックが増えても、自己干渉を起こさずに、ネットワークを高密度化および大規模化できるのです。
効率の高いデューティーサイクリング
ネットワーク全体でデューティーサイクリングされたネットワークとは異なり、TSCHネットワークで個々のノードがその送信機を起動するのは、パケットを送信する必要があるときと、受信する必要があるときだけです。TSCHネットワークは、ネットワークトラフィックを各送信機−受信機の単位でスケジュールすることで、ネットワーク全体で不均一なデータトラフィックに容易に対応できます。
例えば、1時間に一度だけ送信する必要のあるタンクレベルセンサーが1台あり、別の場所に数秒ごとに結果をレポートする圧力/流量センサーが複数台ある場合、TSCHネットワークはそのレベルのデータトラフィックを高い信頼性でサポートするのに必要な頻度でノード(とその親)を起動します。
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