二分化が進むクラウドRANとモバイルエッジコンピューティング:無線インフラにふさわしいアーキテクチャは?(1/4 ページ)
ワイヤレスインフラストラクチャを整備する上で、クラウドRANとモバイルエッジコンピューティングという2つの概念が注目されている。ただ、この2つの概念は、相反するものと考えられているが、果たして、本当だろうか――。それぞれの概念の利点と課題をみていきながら、ワイヤレスインフラストラクチャにふさわしいアーキテクチャを検討していく。
分散基地局アーキテクチャへの移行が進む中で
ここ数年、ワイヤレスインフラストラクチャの配備は、分散基地局アーキテクチャに急速に移行しています。このようなアーキテクチャは「スーパーマクロ」とも呼ばれ、ベースバンド処理プールを集中化し、より多くの無線を供給できます。そのため、有効範囲が広くロードバランシングがより効率的になります。
クラウドRANの概念は、集中基地局のプールを、データセンター内のコンテンツやデータのリポジトリーと併置されているクラウドに持って行くことです。クラウドRANでは、低コストのコンピューティングを使用でき、市販のサーバシャシーが利用できるため、コスト効率の高いRANの配備とロードバランシングが可能で、ネットワークプロビジョニング(=予測に応じた準備)が極めて容易であるという利点があります。
同時に、欧州電気通信標準化機構(ETSI)のMobile Edge Computing Industry Standard Group(MEC ISG)の主導により新たに出現してきたモバイルエッジコンピューティングは、ベースバンドプールと併置された端末で処理を行うという概念により、ローカルコンテンツのキャッシュを維持することでユーザーにより良いサービスを提供できるようにします。ユーザーの好みに応じてコンテンツをローカルでキャッシュすることで、遅延を短くし、位置情報に基づく分析など一時的なデータ処理をエッジコンピューティングで実行します。これら2つのアーキテクチャの概念は、ネットワーク内のさまざまなノードにコンピューティングを配備することを提案しています。
一見、これら2つの競合するアーキテクチャは、それぞれ逆の方向を目指し、ネットワーク内で二分化しているように見えます。しかし掘り下げて考えると、両方の利点を生かすバランスの取れたアプローチでネットワークを配備し、これら2つの競合テクノロジーへと移行することで、相互を補完する新しいサービスが実現可能であることも示唆しています。
分散基地局
分散基地局の概念は、今から10年以上前、アンテナ塔の足元にある従来の基地局から、塔の先端に設置されたアンテナに向けて、同軸ケーブルを使用して信号を送る際の電力喪失を克服するために誕生しました。電力損失を防ぐため、無線部は塔先端のアンテナに近接してリモートで配置されました。このリモートラジオヘッド(RRH)は、ファイバーを使用してベースバンドBTSシャシーに接続されました。Common Public Radio Interface(CPRI)などのプロトコルは、データを伝送し、リモート無線を同期するために考案されました。ファイバーが使用できない場合は、マイクロ波かミリ波の無線を使用してCPRIペイロードを伝送しました。
このアーキテクチャの移行によって、オペレーターはさまざまなシステムベンダーのラジオシャシーとベースバンドシャシーを組み合わせて使用できるようになるため、コスト削減やサプライチェーンの改善のほか、在庫管理も容易になることが期待されました。実際には相互運用性に関する懸念から、このような期待は実現しませんでしたが、1次システムベンダーは、さまざまな地域で急激に増加する多様な無線部(周波数帯)を管理するために、より小規模なベンダーの無線を活用できるようになりました。
そして分散基地局アーキテクチャが定着しました。このようなアーキテクチャはスーパーマクロとも呼ばれ、ベースバンド処理部を集中化し、より多くの無線を供給できるため、有効範囲が広くロードバランシングがより効率的になります。データセンターとクラウドコンピューティングが成功した結果、サーバファームで実行されるベースバンド処理を仮想化することで分散基地局アーキテクチャを拡張するクラウドRANという概念が生まれました。クラウドRANは、低コストのコンピューティングパワーで実現できるため、市販のサーバシャシーを利用できます。このため、コスト効率の高いRAN配備とロードバランシングが可能で、ネットワークプロビジョニングが極めて容易であるという利点があります。クラウドRANが広く実装されれば、ネットワーク自体を自身で所有する必要がないので、多くの仮想ネットワークプロバイダーがコンテンツとサービスに集中できるようになると期待されます。
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