過電圧監視がない電源の末路:Wired, Weird(3/3 ページ)
今回は、高価な電気メッキ装置用電源機器の修理エピソードを紹介する。故障原因は、しばしば見受けられる“配線切れ”だったが、事もあろうに過電圧監視が施されていなかったが故に、悲惨な末路を迎えてしまった。
出力側にも問題を発見
入力電圧を少しずつ上げて、生成電圧される電圧を確認した。入力電圧がDC50V程度で電源制御ICの発振が開始され、DC4.5V、DC12V、DC24Vの生成が確認できた。徐々に電圧を上げてDC100V程度になると、5V電圧が4.8V程度になりフィードバックがかかり始めた。しかし、この時にDC24Vの電圧は既に28Vに達し、12V電圧は13Vを越えていた。実際の一次電源はAC200Vで整流したらDC280Vになる。二次側のフィードバックがなくなった状況で一次側にDC280Vが接続されたらどうなるか? これは想像するだけでも怖い。
出力側にも問題点があり、正常動作でも28Vに達してしまうDC24Vの出力電圧が高すぎる。DC24V電源出力に4.7Ωの抵抗を入れて26V程度に下げる改造を行った。電源生成部の改造写真を図5に示す。
改造後にAC100Vを整流したDC140Vを印加し、各出力の電圧を確認した。DC5Vは4.98V、DC12Vは13.4V、DC24Vは26.2Vだった。正常な電圧に近く、これなら大丈夫だろう。改造した基板を機器に取り付けてAC200Vを通電したら、パネルの表示は正常に点灯した。操作パネルの動作もOKだった。しかし、メッキ電圧をコントロールする専用ICが少し熱い。このICも劣化していることが懸念されたが、専用ICでは手出しできない。なにはともあれ、『電源が入らない』という修理要求は満たした。あとは、顧客に出力動作を確認してもらうしかない。というわけで、正常に動作することを願って、修理品を送り返した。
故障原因をおさらい
この基板はハンダ面と部品面に樹脂コーティングが施されており、ICの点検や交換が難しい基板で基本的には修理できないような作り方になっていた。5Vの電圧フィードバックの配線が切れたことが不具合の直接の原因だった。また配線が切れたのは水と電気による電蝕だった。この機器はケースの内部にも水が付着しており、基板の端面からコーティングの下に水分が浸入して電触が発生したものと思われた。
マルチ出力電源では電解コンデンサーの容量抜けによっても過電圧が発生することがあり、各出力電圧の過電圧を監視して電源の出力をシャットダウンすることは最低限の安全対策だ。なぜ、この機器では20Vのツェナーダイオードの保護だけにしたのか、はなはだ疑問だ。二次側に過電圧監視回路を追加して基板の部品が壊れないような安全対策を追加し、かつ水滴が付着するという使用環境を改善しなければ、この機器の不具合はまだまだ出る可能性が高い。
設計の怠慢が高価な機器そのものをダメにする
修理品を納品して1週間後に連絡があった。「電源が入って表示は点灯したが、出力電圧が出ない」ということだった。やはりメッキ出力の専用ICも破損していたようだ。やむを得ず、「これ以上の修理はできない」と回答した。
繰り返しになるが、電源出力の過電圧監視を行って、安全なうちに出力を遮断しなければ、高価な機器が破損して修理もできなくなってしまう。電源機器の過電圧シャットダウンが必須であることが身にしみてよく分かった。
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