フェライト(2) ―― 磁区と磁気飽和:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(2)(3/3 ページ)
電子部品について深く知ることで、より正しく電子部品を使用し、「分かって使う」を目指す本連載。フェライト編第2回となる今回は、「磁化の様子と磁性体の飽和」を考えていきます。
磁歪
磁性体に圧力を印加すると磁気特性が変化し、また、逆に磁性体に磁束を通すと物理寸法が変化します(多くの強磁性体では1〜100ppmMAX程度)。
これは既に述べた磁区(=電子軌道)が圧力や磁束によって変形するためで、チョークやトランスが「唸(うな)る」のもこの作用によるものですが、直接コア全体が振動してもSW周波数領域の音は人の可聴域から外れているので騒音とはなりません。騒音になる主な原因としては次の表2のケースがあります。
フェライトの機械的物性
このようにして得られたフェライトの主な機械的な物性値を表3に示します。
特徴的なのは軟鉄が曲げ、圧縮、引っ張りで同程度の強度を示すのに対して、フェライトは曲げ強度は圧縮強度の7分の1程度、引っ張り強さに至っては圧縮の30分の1程度しかない材料であることが分かります。
つまり、
“フェライトは曲げたり、引っ張ったりして使ってはいけない”
材料なのです。ほとんど伸びませんのでコンクリートや岩石に近い物性と考えても良いかと思います。
また、金属ほどではありませんがMn−Zn系フェライトは導電性と見なせる程度の抵抗率であることには注意が必要です。
項目 | 単位 | Ni・Zn フェライト |
Mn・Zn フェライト |
(参考) SS400 軟鉄 |
|
---|---|---|---|---|---|
ビッカース硬さ | HV | 650 | 550〜580 | 201〜270 | |
曲げ強度 | σB | MPa | 118 | 98 | 400〜510 |
引張強さ | σT | MPa | 20〜49 | 20〜49 | 400〜510 |
圧縮強さ | σc | MPa | 780 | 780 | 400〜510 |
ヤング率 | E | GPa | 98〜196 | 137〜196 | 206 |
ポアソン比 | ν | 0.2〜0.25 | 0.2〜0.25 | 0.3 | |
熱膨張率 | α | 10-6/℃ | 9.5〜9.7 | 12〜12.5 | 12 |
熱伝導率 | κ | W/(m・℃) | 16 | 9.7 | 51.6 |
比熱 | Cp | J/(kg・℃) | 756 | 1090 | 473 |
密度 | ds | kg/m3(×103) | 5.0 | 4.8 | 7.9 |
抵抗率 | ρ | Ω・m | 106 | 5〜6 | 1×10-7 |
※日立金属「Products Guide Soft Soft-Ferrites HJ-B3-D 2007-10(B)HT3」を基に作成 |
キュリー温度
キュリー夫人の配偶者のピエール・キュリーが発見した現象で磁性体の温度を上げていくと、熱エネルギーによる電子の撹乱(かくらん)運動が増大して超交換交互作用を維持できなくなり、磁性体は急激にその特性を失います。(注:コアの損失が加速度的に増大する温度ではありません)
このような現象が現れる温度をキュリー温度といい、磁性体の特性の1つです。高い方が良いと思われがちですが実際には150℃以上なので、キュリー温度のみならず、その他の諸特性のバランスに着目して使いやすいコアを選択することが重要です。
また、Hi−μ材と呼ばれる比透磁率μSの大きい材料の方がキュリー温度は低い傾向にあります。
次回は電子部品としてのフェライトの仕様について説明したいと思います。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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