連載
フェライト(4) ―― 使用上の注意点:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(4)(4/4 ページ)
今回は、主に「Mn(マンガン)系パワー・フェライト」の使用上の注意点について説明していきます。また記事後半では、フェライトの仕様書に記載される主な用語の解説も行います。
各種用語
フェライトの仕様書に記載される主な用語には以下のものがあります。
*一般的な表現として、B〇〇と表記した場合は交流磁束密度の0-Pを指し、ΔBの場合は磁束密度の振幅(P-P)を指します。磁界の強さHについても同様の表記になります。
記号 | 用語 | 説明 | |
---|---|---|---|
μ0 | 真空の透磁率 | 4π×10−7H/m | |
μs | 比透磁率 | B/Hで得られた値をμ0で除した値 | |
μi | 交流初透磁率 | 初磁化曲線の原点(Hm→0)における交流B-H曲線から求める比透磁率 | |
μa | 振幅透磁率 | 消磁されたコアに交流磁界を与えた場合のB/Hから求める比透磁率 | |
μe | 実効(比)透磁率 | コイルとしてのL値から求めた比透磁率 L:インダクタンス、N:巻回数、C1:コア定数 |
μe=(L/(μ0・N2))C1 |
Hs(H∞) | 飽和時の磁界の強さ | 飽和磁束密度Bsを与える時の磁界の強さ(1200A/mまたは指定値) | |
Hms | 実効飽和時の磁界の強さ | 実効飽和磁束密度Bmsを与える時の磁界の強さ | |
Bs | 飽和時磁束密度 | 全磁区の磁気モーメントがそろう飽和時の磁束密度 | |
Bms | 実効飽和磁束密度 | 実効飽和時の磁束密度(指定値) | |
Brs | 飽和残留磁束密度 | Bsから磁界を取り去った時の残留磁束密度。 | |
Brms | 実効飽和残留磁束密度 | Bmsから磁界を取り去った時の残留磁束密度 | |
Hcs | 飽和保持力 | Bsから磁界を取り去り、さらに磁束密度を0にする磁界の強さ | |
Hcms | 実効飽和保磁力 | Bmsから磁界を取り去り、さらに磁束密度を0にする磁界の強さ |
記号 | 用語 | 説明 |
---|---|---|
Pc | コア損失 | 磁心に交流磁界(Bm)を与えた時にコアに発生する損失(JIS-C-2560-1 PWフェライト) |
ds | 密度 | 単位体積当たりの質量(Kg/m3) |
Tc | キュリー温度 | その温度以下ではフェリ磁性になり、その温度以上では常磁性になる温度 |
tanδ | 損失係数 | ヒステリシス損失係数(tanδh)、うず電流損失係数(tanδe)および残留損失係数(tanδr)から計算される係数 tanδ=コア実損失/ωL=(全損失−銅損)/ωL =tanδh+tanδr=h1[√(インダクタンス/体積)]× i+e1・f+r1 h1:ヒステリシス損係数、e1:うず電流損係数、r1:残留損係数 |
tanδ/μi | 相対損失係数 | tanδを交流初透磁率μiで割った値。ギャップ付きコアでギャップ長が短い場合は、tanδ/μeで表される。(μeは実効透磁率) |
DF | (相対)ディスアコモデーション係数 | 透磁率の時間的低減率(t2>t1) DF=[(μ1−μ2)/(log10(t2/t1))]×(1/μ12) μ1:完全消磁後t1秒経過した時の透磁率、μ2:t2秒経過した時の透磁率 |
ρ | 抵抗率 | 単位立方体での抵抗値(Ω・m) |
αμi | 初透磁率温度係数 | 温度T1からT2に変化させた時の、1℃当りの透磁率の変化率 αμi=((μi2−μi1)/μi1)✕(1/(T2−T1)) μi1:温度T1における初透磁率、μi2:温度T2における初透磁率 |
αμr | 初透磁率相対温度係数 | αμiを基準であるμi1で除した値 |
C1 | コア定数1 | C1=Σ([同一材、同面積の磁路長]/[それぞれの断面積]) |
C2 | コア定数2 | C2=Σ([同一材、同面積の磁路長]/[それぞれの断面積]2) |
Ae | 実効断面積 | C1/C2 |
le | 実効磁路長 | (C1)2/C2=Ae×C1 |
Ve | 実効体積 | Ae×le=(C1)3/(C2)2 |
次回はフェライトコアをトランス・チョークの設計に用いる場合の磁気回路について考えます。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- フェライト(3) ―― 電子部品としてのフェライト
電子部品について深く知ることで、より正しく電子部品を使用し、「分かって使う」を目指す本連載。フェライト編第3回は、フェライトに代表される脆性(ぜいせい)材料の使い方と電子部品としてのフェライトの製造法について詳しくみていきます。 - フェライト(2) ―― 磁区と磁気飽和
電子部品について深く知ることで、より正しく電子部品を使用し、「分かって使う」を目指す本連載。フェライト編第2回となる今回は、「磁化の様子と磁性体の飽和」を考えていきます。 - フェライト(1) ―― 磁性
“電子部品をより正しく使いこなす”をテーマに、これからさまざまな電子部品を取り上げ、電子部品の“より詳しいところ”を紹介していきます。まずは「フェライト」について解説していきます。 - SPICEの内側を探る――節点法とは
電子回路を設計する上で必須となっているSPICE。本連載では、そのSPICEの仕組みと活用法を取り上げる。第1回は、SPICEを使う目的や、数多く存在するSPICEツールの選定基準、SPICEの解析手法である節点法について説明する。 - 抵抗の基本、選択のポイント
今回は、電気/電子回路の中で最も基本的な要素である抵抗について解説する。回路図上での抵抗のシンボルマークはその種類に関係なくすべて同じだが、実際には目的に応じて、抵抗の種類、精度(誤差)、定格電力、形状などの各要素を総合的に検証し、使用する製品を選択しなければならない。ここで誤った判断をすると、アプリケーション、回路によっては思わぬトラブルに遭遇するケースもある。すなわち、抵抗1本にも“適材適所”が存在するということだ。 - コンデンサの基本、選択のポイント
今回は、コンデンサを取り上げる。受動部品の中で、コンデンサほど種類の多いものはない。それだけ、アプリケーションに応じてコンデンサを適切に選択することが重要だと言える。本稿では、まずコンデンサの基本的な特性項目と種類別の特徴について説明する。さらに、各種用途においてどのようなコンデンサを選択すればよいのか、そのポイントを紹介する。