リニアレギュレーターで電力を安定化するには:DC-DCコンバーター活用講座(1) 電力安定化(1)(1/3 ページ)
DC-DCコンバーターをより深く理解するために、DC-DC回路とトポロジーについて解説する本連載。DC-DCコンバーターを使いこなすための実用的ヒントを要所要所にちりばめました。まずは、電力安定化について、トポロジーごとに解説していきます。
電力安定化概要
今日のAC-DCコンバーターとDC-DCコンバーターは、さまざまな電子機器、デバイス、システム向けに電力を効率よく変換し、制御され十分に安定化された安全なDC電源を供給するように設計されています。電力変換においてトランス、整流器、リニアレギュレーターが主要な技術であったのは、それほど前のことではありません。
しかし、LEDが徐々に電球に代わりつつあるのと同様に、リニアレギュレーターはDC-DCコンバーターに、1次側スイッチングコントローラーは50Hzの単純なACトランスに次第に取って代わろうとしています。この10年で技術は大きく進歩し、これまで存在しなかった新しい回路、部品、素材の長所を取り入れたスイッチングレギュレーターが開発されています。
この進歩によって性能向上と温度特性の改善が可能となり、同時に電源のサイズ、重量、コストの大幅低減が実現しました。その結果、スイッチングレギュレーターは今や大量に使用され、DC-DCとAC-DC両方の電力変換における標準技術となっています。
今回から複数回にわたり、各種DC-DCコンバーターにおける電力安定化について解説していきます。初回はリニアレギュレーターから始めましょう。
リニアレギュレーター
リニア電圧レギュレーターは、ほぼ安定した入力電圧源から安定した出力電圧を供給します。通常動作では、入力電圧が急に変化しても、出力電圧は安定した状態を維持します。これは、リニアレギュレーターが基本周波数だけでなく5次高調波や10次高調波であっても、入力電圧リップルを非常に効率的に除去できることを意味します。制約は、内部エラーアンプの帰還回路の応答速度だけです。
ほとんどのリニアレギュレーターは閉ループ制御を行います。図1に、このタイプの電圧レギュレーターを示します。パストランジスタは制御素子で、実質的に入力から出力への電流の流れを制御する可変抵抗です。抵抗分圧器R1/R2は、必要な出力電圧において、エラーアンプの反転入力で分圧された電圧が非反転入力のVREF電圧と等しくなるように選択されます。エラーアンプは、入力間の電圧差が常にゼロになるように出力を制御します。
負荷の減少または入力電圧の上昇により出力電圧が上昇すると、エラーアンプの反転入力の電圧はVREF電圧を超えて上昇し、エラーアンプの出力は負になります。このため、パストランジスタの駆動電圧が低減され、出力電圧が下がります。一方、負荷が増加するか、入力電圧が低下すると、反転入力の電圧がVREF電圧より低くなり、トランジスタの駆動電圧が上昇し、その分出力電圧が上がります。
このようにして、入力電圧の変動(ラインレギュレーション)と負荷の変化(負荷レギュレーション)が同じ帰還ループにより制御されます。安定した高精度の出力電圧を得るためにレファレンス電圧に、高い安定性と優れた温度係数が求められることは強調するまでもありませんが、PCBレイアウトが適切であれば、出力電圧リップル/ノイズの値を容易に50μVp-p未満にできます。
図1の簡略化された3端子レギュレーターのブロック図には、短絡保護回路が示されていません。出力がグランドに短絡した場合、トランジスタが飽和して入力から出力に非常に大きい電流が流れるので、その電流を制限するには内部回路がもう1つ必要です(図2)。電流制限では、検出抵抗RS両端の電圧降下を利用して出力電流をモニターします。電流が非常に大きくなり電圧が0.7Vを超えると、Q2が導通し始めてQ1から電流を「奪う」ので、駆動電圧が低下し、出力電流が制限されます(ILIMIT=0.7V/RS)。
電流制限値は、通常動作時に流れる最大電流より十分大きい値に設定する必要があります。一般に、制限値は定格電流より150%〜200%大きくします。短絡時、レギュレーターはディスエーブルされないので、絶えず過負荷状態にあります。廉価なリニアレギュレーターは過熱保護回路にのみ依存し、パストランジスタが「短絡保護機能」として、バーンアウトする前にこのトランジスタをシャットダウンすることがあります。これによりリニアレギュレーターは保護されますが、レギュレーターがオフするまでの時間に短絡電流を流すように仕様が規定されていないと、1次電源が過熱して故障する恐れがあります。
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