プッシュプルコンバーターで電力安定化するには:DC-DCコンバーター活用講座(6) 電力安定化(6)(1/3 ページ)
プッシュプルコンバーターをはじめ、プッシュプルコンバーターに似たトポロジーであるハーフブリッジコンバーターやフルブリッジコンバーターの他、バスコンバーターや非安定化プッシュプルコンバーターによる電力安定化について説明する。
プッシュプルコンバーター
プッシュプルコンバーターは、入力電圧をより低い出力電圧またはより高い出力電圧に変換しますが、動作するには分割された巻線トランスが必要です。簡略回路図と関連する電圧および電流波形を図1に示します。
S1が閉じているとき、トランスの1次巻線を流れる電流がVIN/LT1,APのおおむね直線的なスルーレートで増加します。同時に、トランスの1次巻線と2次巻線の結合により、2次巻線T1,ASに電圧VIN/Nが生じます。整流ダイオードD1と出力インダクターL1を流れる2次側電流は(VIN/N -VOUT)/L1のレートで直線的に増加します。
また、この電流は負荷RLに流れ込み、出力コンデンサーC1を充電します。S1が開くと、極性が反転しますが、ダイオードD1によって2次巻線T1,ASに負電圧が生じるのを防ぎます。ただし、反転2次巻線T1,BSからダイオードD2を通ってL1に電流が流れ続けます。このとき、電流はVOUT/L1に比例して直線的に減少します。次いで、S2が閉じて、サイクルが再び開始されますが、S2が閉じている間は2次巻線T1,BSが電流を供給します。伝達関数を導出するには、次のエネルギー式を使用します。
PWMサイクル期間には2つのスイッチが使用されるので、T/2の値が使用されます。そのため、各トランジスタのオン時間のあいだの期間Tに供給されるエネルギーは半分になります。
並び替えると次のようになります。
S1とS2はともにデューティサイクルが50%に近いので、2つのスイッチが同時にオンしないようにすることが非常に重要です。同時にオンすると、非常に大きな短絡(シュートスルー)電流が流れます。よって、一方のスイッチが開いてからもう一方のスイッチが閉じるまでに、適切なデッドタイムが必要です。
プッシュプルコンバーターで生じることがあるもう1つの問題は、磁束の変位(flux walking)です。プッシュプルコンバーターはトランスのBH特性曲線の全範囲を使用するので、スイッチの性能のわずかな違い(飽和電圧、スイッチング時間など)によって、磁束の不均衡が生じることがあります。
トランス内の磁束の不均衡は各スイッチングサイクルの最後で完全にゼロにリセットすることはできないので、磁束の不均衡によるオフセットは蓄積されてしまい、前のサイクルから残っているオフセットが次のサイクルの開始点になります。トランスのコア材は最終的に飽和する可能性があり、エネルギーの伝送はさらに不均衡になります。
飽和したコアはもはや標準的なインダクターとして機能しないので、1次巻線に大きな電流が流れることで片方または両方のスイッチが破壊される可能性があります。この問題は、サイクルごとの電流検出と電流制限によって回避することができます。
また、フォワードコンバーターではトランスのBH曲線の第1象限のみを使用するのに対して、プッシュプルコンバーターでは両方の象限を使用するので、同じサイズのトランスでフォワードコンバーターの2倍の電力を伝送できます。このため、大きな出力電力を供給できるように調整したり、低消費電力の超小型DC-DCコンバーターを構成するのに適した、コスト効率の非常に高いトポロジーといえます。
最大効率を得るため、デューティサイクルは通常50%近くに設定されるので、入力/出力電圧比はトランスの巻数比によって固定されます。従って、安定化プッシュプルコンバーターは、安定化入力電圧を使ってバスコンバーターとして使用するのに最も適しています。
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