データシートを正しく理解するなら「凡例」から気を抜くな:マイコン講座 データシートの読み方編(1)(2/3 ページ)
今回から3回にわたり、マイコン製品のデータシートを正しく理解することを目的に、実際のデータシートを見ながら、データシートの注意点を紹介していこう。第1回は、おろそかにされがちな「凡例」をはじめ、「絶対最大定格」「一般動作条件」「電源電圧立ち上がり/立ち下がり時間」の各項目について解説していく。
絶対最大定格
電気的特性の各項目の中でも、最も重要な項目だ。この項目に記載されていることを守らないと、マイコンを破壊してしまったり、ダメージを与えて劣化させたりしてしまう。具体例は「Q&Aで学ぶマイコン講座(4):ラッチアップって何?」や「Q&Aで学ぶマイコン講座(38):ESDとEOSの違いと対策法」を参照してほしい。
図2に絶対最大定格の電圧スペックに関する記載を示す。
電圧の絶対最大定格に関して、ユーザーからよく聞かれる質問は、「短時間だが絶対最大定格を超えていても大丈夫ですか?」というものである。基本的には、一瞬だけ最大定格を超える場合でも、保証されない。例えば、図2の上から3段目の項目|ΔVDDx|は、電源端子が複数ある場合に各端子間で許容される電圧差であるが、このスペックを守らないとラッチアップが発生したり、過電流が電源端子間に流れてしまったりし、デバイスの破壊や劣化を引き起こす。しかし、電源遮断時には、多少電圧差があっても大丈夫では? と思いがちだ。電源遮断時に発生した場合にラッチアップが発生しても、直後に電源は遮断されるのでラッチアップは収束する。また、過電流が流れたとしても、電源が遮断されるまでの短時間であれば、デバイスに与えるダメージのエネルギー量が小さいため、劣化が起きない。だから、電源遮断時なら大丈夫と思ってしまうのだろう。しかし、このような場合、短時間でも過電流は流れ、その電流値の大きさはその時の条件に依存する。その過電流が許容できるかどうかの判断は、最終的にマイコンメーカーに確認する必要がある。
一方、電源立ち上げ時の場合は、ラッチアップやEOSが収束せずに、破壊、劣化を引き起こす可能性が高いので、絶対にやってはいけない。
「一瞬だったら、大丈夫でしょう?」と尋ねてこられるユーザーが多いが、短時間のノイズでもラッチアップは発生するので、絶対最大定格は絶対に守らなければならないスペックなのだ。
図3に、絶対最大定格の電流スペックに関する記載を示す。
これは、電源端子を含む各端子に流すことができる最大電流のスペックだ。ユーザーのほとんどは各汎用I/O端子に流せる最大電流(この図では25mA/−25mA)には注意を払うのだが、総電流量のΣIIOを見落とす場合がある。例えば、ΣIIOは120mAとされているので、各汎用I/O端子に25mA流すと実質4本分しか流せないことになる。それを忘れて、5本以上の汎用I/O端子に同時に25mAを流すソフトウエアを作ってしまうことがある。多くの場合はハードウエア設計者とソフトウエア設計者が異なるので、起きやすいミスである。開発完了してから気が付いて「どうにかならないか?」と頼まれることもあるが、こればかりはどうにもならない。
もう1つ絶対最大定格の記載で注意が必要な項目は、IINJ(PIN)である。これは、端子の内部近傍に付いている保護ダイオードに流すことができる最大電流だ。電源電圧よりも高い電圧(5V耐圧端子の場合は5Vよりも高い電圧)、またはGNDレベルよりも低い電圧が端子に印加された場合、電流を電源またはGNDレベルに流して、端子を守る役目のダイオードである。電源電圧よりも高い電圧を端子に印加することはまずないと思うが、例えば「Q&Aで学ぶマイコン講座(9):商用電源(100V)を直接マイコンの端子に接続できますか?」で述べたように、制限抵抗を介して、高電圧を汎用I/O端子に印加する場合には、よくチェックしなければならないスペックだ。5V耐圧端子の場合、保護ダイオードの接続先が通常の電源ラインではないので、別項目で解説されている。そちらも読む必要がある。
電圧スペックは守っていても、IINJ(PIN)電流のスペックを見落とすユーザーが時々いるので、必ず確認すべき項目だ。
図4に絶対最大定格の温度スペックを示す。
過去に「マイコンを格納している装置の密封度が高く、マイコン周辺温度が高くなってしまう」という相談があった。この場合、別項目でパッケージの熱抵抗と熱計算式が記載されているので、それに基づいて熱設計を行い、温度スペックを超えないようにしなくてはならないというのが回答になる。
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