A-Dコンバーターの「ノイズ・スペクトル密度」を理解する:NSDとは何か(1/5 ページ)
信号アクイジションシステムについては、数十年にわたってより広い帯域幅が求められる状況が続いています。その結果、高速A-Dコンバーター(ADC)で最も重視される性能項目にも緩やかな変化が生じています。それに伴い、ADCの性能は、従来とは異なる方法で測定されるようになってきました。
信号アクイジションシステムについては、数十年にわたってより広い帯域幅が求められる状況が続いています。その結果、高速A-Dコンバーター(ADC)で最も重視される性能項目にも緩やかな変化が生じています。それに伴い、ADCの性能は、従来とは異なる方法で測定されるようになってきました。
1980年代には、ADCの特性は、主に微分非直線性(DNL)や積分非直線性(INL)といったDC仕様で評価されていました。1990年代になると、S/N比がADCの重要な特性として使われるになりました。また、スプリアスフリー・ダイナミックレンジ(SFDR)も重要なパラメーターの1つです。それが現在では、ノイズ・スペクトル密度(NSD:Noise SpectralDensity)を重要な指標として扱うようになりました。NSDは、特に、サンプルレートがギガサンプル/秒(GSPS)に達する高速ADCの性能を規定する上で有用な仕様の1つです。
従来も、NSDは、ADCのノイズ性能を規定するための仕様として使われていました。ただ、多くのシステム設計者にとって、NSDは、最先端の高速ADCの主要な仕様として扱うべきものではなかったかもしれません。また、他の仕様に注目して高速ADCを選定してきた技術者にとって、NSDは全くなじみのない概念であるかもしれません。実際、このADCの性能指標については、技術者から次のような質問が寄せられることが少なくありません。
「これまでにも、ナイキストレートのADCのデータシートで、NSDの仕様を目にする機会はありました。ただ、それが何を意味するのか、なぜ重要なのか、実際には理解していませんでした。NSDとはどのようなものなのでしょうか」
このことは、NSDというADCの性能指標について詳しく学ぶ機会を設けるべきであることを表しています。なお、ナイキストレートのADCとは、入力帯域幅全体に関する全ての情報を取得するために必要な最も低いサンプリング周波数で動作するADCのことです。
NSDは従来、ADCの性能を表す重要なパラメーターの1つでした。実際、多くの製品では、データシートの1ページ目にその値が記載されていました。その場合、NSDは、「dBFS/Hz」または「dBm/Hz」を単位とする比較的大きな負の値として示されていたはずです。NSDの典型的な値は、おそらく−140dBFS/Hz〜−165dBFS/Hz程度でしょう。詳細は後述しますが、NSDは、ADCのS/N比とサンプルレートに基づいて規定されます。
ADCのS/N比は、信号のパワーと、ADCに入力されたと見なすことができる信号以外の全パワーの対数比として定義されます。ADCにフルスケールの信号を入力した時のS/N比は、SNRFSと表記されることがあります。信号以外のパワーは、量子化ノイズ、熱ノイズ、ADCの回路で生じる微小な誤差など、複数の成分から成ります。ADCでは、非線形な処理によって、連続信号を離散的なデータに変換します。この処理に伴って原理的に生成されるのが量子化ノイズです。量子化ノイズとは、アナログ入力(通常は正弦波で表されます)と、変換後の出力データの差のことです。その値は、LSB(最小離散ステップの値)を単位として表されます。
NSDとは、単位帯域幅当たりの総ノイズパワーのことです。ここで言う総ノイズパワーとは、ADCの入力部でサンプリングされたと見なすことができる全てのノイズのことを指します。ナイキストレートのADCの場合、このノイズは、サンプリング周波数fsの1/2、つまりはfs/2に等しいナイキスト領域全体に分散されます。
NSDの単位の意味
dBFS/Hzという単位は、何を意味するのでしょうか。それは、ADCのフルスケールに対するノイズの比率をdB単位で表すという意味です。ただし、ここで言うノイズとは、1Hzの周波数ビン幅内に見られるノイズパワーのことを指します。この点が重要です。1Hzというのは、NSDを規定するために一般的に使用される値であり、ノイズの帯域幅の基本単位となります。
また、ADCの入力パワーとして絶対単位を用い、NSDをdBm/Hzという単位で規定することもあります。この場合、ADCのフルスケールに相当する入力パワーについては、絶対単位で表した値が既知でなければなりません。あるいは、入力電圧とインピーダンスに基づいて、絶対単位で表したフルスケールの値を測定する必要があります。
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