DC-DCコンバーターの安全性(4)傷害の危険性と安全設計:DC-DCコンバーター活用講座(29)(4/4 ページ)
前回に引き続き、DC-DCコンバーターの安全性に関して説明します。今回は、DC-DCコンバーターの「傷害の危険性」「安全性設計」「医療安全性」を取り上げます。
医療安全性
DC-DC電源は、医療機器への使用が認証されるには、産業分野の安全性要件と比べると、かなり厳しい仕様に準拠する必要があります。最も重要な要求事項の1つは、患者と操作者の保護を区別していることです。MOOP(操作者保護手段)カテゴリーでは、要求は、産業機器に使われている標準保護手段に準じますが、MOPP(患者保護手段)カテゴリーでは、特に絶縁沿面距離と空間距離に関しての要求が厳しくなります。表6に、2つの保護手段(MOP)のカテゴリーにおける絶縁要求を示します。
絶縁要求 | MOOP | MOPP | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
空間距離 | 沿面距離 | 絶縁電圧 | 空間距離 | 沿面距離 | 絶縁電圧 | |
<250VAC | 2.0mm | 3.2mm | 1500VAC | 2.5mm | 4.0mm | 1500VAC |
4.0mm | 6.4mm | 3000VAC | 5.0mm | 8.0mm | 4000VAC | |
<43VDC | 1.0mm | 2.0mm | 1000VAC | 1.0mm | 2.0mm | 1500VAC |
<30VAC | 2.0mm | 4.0mm | 2000VAC | 2.0mm | 4.0mm | 3000VAC |
1つのレベルの保護が機能しなかった場合に備えて、2つのレベルの保護を行うことが基本的な安全方針の1つになっており、オペレーターと患者両方の安全のためには、それぞれに2つ(MOPP×2、MOOP×2)の保護手段(MOP-Means of Protection)が必要です。MOPは複数の部品間で分割可能で、例えば、AC-DC電源を2×MOOPに使用し、その後段の絶縁DC-DCコンバーターを2×MOPPに使用することができます。しかし、医療グレードの設計では念には念を入れてAC-DC電源とDC-DC電源のそれぞれに2×MOPPと2×MOOPの両方を使うのが当然とされています。
しかし、MOOP/MOPPの概念により、患者への漏れ電流の要件は以前の医療基準と比べて緩和されました。その要求は、患者との接触タイプによるアプリケーションの分類によって異なります。患者との接触タイプは3つあり、タイプB(身体–患者との直接的な接触なし)、タイプBF(身体フローティング-患者との物理的接触あり)、CF(人間の心臓との直接的な接触あり)に分類されています。患者の心臓との距離が短いほど、許容漏れ電流は低くなります。表7に、正常動作(NC–正常)と過誤が1つの場合(SFC–単一故障状態)の制限値を示します。
漏れ電流 | タイプB | タイプBF | タイプCF | |||
---|---|---|---|---|---|---|
NC | SFC | NC | SFC | NC | SFC | |
アース | 500µA | 1mA | 500µA | 1mA | 500µA | 1mA |
ケース | 100µA | 500µA | 100µA | 500µA | 100µA | 500µA |
患者 | 100µA | 500µA | 100µA | 500µA | 10µA | 50µA |
以前より漏れ電流の制限値が緩和されたことで、医療グレードのDC-DC電源をEMC要件にも適合させることがはるかに容易になりました。以前の制限値では、入出力間のコモンモードフィルターコンデンサーは実質的に使用禁止となるため、大きな問題がありました。
医療安全性に対するハザードベースの取り組みは、電源や医療機器メーカーに新たな難問を突き付けることになりました。というのは、認証にはISO14971規格に準拠した正式なリスクマネジメント(RM)プロセスが含まれているからです。リスクマネジメントは、設計や製造段階におけるリスクの分析を対象とするだけでなく、長期間リスクをモニターして、製品の全寿命期間にわたって装置の安全性を脅かすことになりかねない経年劣化、使用および、乱用の影響を明らかにすることも要求しています。
リスクアセスメントプロセスは、リスク指標マトリクスに基づいています。このマトリクスは、正常動作時および、故障状態の電源によって発生する可能性のある、リスクの分析と重要度の決定を行います。リスクマトリクスでは、発生確率(「起こりそうにない」から「頻繁に起こる」まで)と深刻度(「無視できる」から「壊滅的」まで)を比較します。両者はそれぞれ、5つのレベルに分かれています。総合的なリスクは、発生確率と深刻度レベルの積になります。積≤6であれば、リスクは通常「許容できる」に分類できますが、許容限界をどこに設定するかの決定権はユーザーに委ねられています。表8の例では、R1が許容可能なリスク、R2がアプリケーションにとって適正なリスク、そしてR3が許容できないリスクです。
深刻度レベル | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
無視できる | 軽度 | 重度 | 危機的 | 壊滅的 | |||
重要度 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
発生確率レベル | 頻繁に発生する | 5 | R1 | R3 | R3 | R3 | R3 |
恐らく発生する | 4 | R1 | R2 | R3 | R3 | R3 | |
時々発生する | 3 | R1 | R1 | R2 | R3 | R3 | |
めったに発生しない | 2 | R1 | R1 | R1 | R2 | R3 | |
発生しそうにない | 1 | R1 | R1 | R1 | R1 | R2 |
リスクマネジメントプランは、リスクコントロールの方策がデバイスにおいて確実に実施されることと、実施されたリスクコントロールの方策が実際にリスクを削減していることの両方を検証する手順を明確化しています。多くの場合、文書化や管理手順にリスクマネジメントプロセスを含ませることは、製造側とユーザーの両方の品質マネジメントシステムにメリットになります。特に、リスクコントロールとモニタリングは、製品の製造、設置、稼働、廃棄を含めた全耐用期間に渡って実施する必要があるからです。
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※本連載は、RECOMが発行した「DC/DC知識の本 ユーザーのための実用的ヒント」(2014年)を転載しています。
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