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アルミ電解コンデンサー(8)―― 市場不良と四級塩問題中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(41)(1/4 ページ)

今回は湿式アルミ電解コンデンサーの残った課題として四級塩*問題を取り上げたいと思います。四級塩問題については現象の説明だけの資料が多く、そのメカニズムについては納得できる技術資料がほとんどありません。本稿では筆者が納得しているメカニズムを1つの説として説明をしていきます。

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 前回は実機での寿命計算の手法について説明しました。電解コンデンサーの寿命は温度とリップル電流に左右されること、そして摩耗形故障を考慮して設計された電子機器の寿命を左右しているのは電解コンデンサーだけではないことも理解していただけたかと思います。
 今回は湿式アルミ電解コンデンサーの残った課題として四級塩*問題を取り上げたいと思います。四級塩問題については現象の説明だけの資料が多く、そのメカニズムについては納得できる技術資料がほとんどありません。本稿では筆者が納得しているメカニズムを1つの説として説明をしていきます。

*4級塩のように算用数字で表記すべきものですが慣例に従って本稿でも四級塩と表記しています。

電解コンデンサーの市場不良問題の一般的認識

 四級塩問題に入る前に、多くの人が参考にしているWikipediaの記事を通じて電解コンデンサーの市場不良の一般的な認識を考えます。
 Wikipediaの「不良電解コンデンサ問題2019年11月19日(火)13:55」には四級塩の問題以外にも過去の電解コンデンサーの市場事故として表1の記載がありますのでその内容と今回の電解コンデンサーの解説(4)〜(7)のポイントを比較してみます。

表1:Wikipedia 不良電解コンデンサ問題の抜粋記事
題名 Wikipediaの内容 本稿の解説記事
①液体電解コンデンサーの構造による
本質的な問題
…アレニウスの法則により、周辺温度が10℃上がると寿命が半分になると言われる… 10℃2倍則は近似式です。引用資料[1]のP2にも経験則と明記されています
…通常の使用時においても長期間電圧が加わった場合、ガスが発生して内部の圧力が上昇する… 電圧印加で発生するガスは酸化膜の欠陥補修の再化成ガスですがごく微量なので封止ゴムを通じて大気中へ拡散されます
…電解コンデンサに印加される電圧のリップル成分が大きいと、電解コンデンサが発熱する… 発熱を左右する自己損失はIr2×ESRですから要因はリップル電流Irです
②台湾製不良電解液によるもの
(2001〜2002)
…台湾の電解コンデンサメーカー各社に電解液を供給している業者が日本のメーカーの技術を真似て低ESR品用電解液を製造・販売したが、真似た技術のいくつかに欠落した点があったため、このような事態となった。これも四級塩電解液が主因とみられている… 現象が四級塩問題とは全く異なりますのでエチレングリコールと水を主成分とした水系電解液中の水分がアルミ材と反応して水酸化アルミへと変化した水和反応事故を指しているのだと思います。
学会発表内容には水和反応の保護技術が明示されていなかったようです*1
③電解液の過剰注入によるものとして、「…一時期の製造ロットにおいて電解液を過剰注入してしまうという製造上の欠陥…があったためである。…」の記載もありますがこの事故は生産ロット不良であって技術的な問題ではないでしょう
その他にも
「…PCのマザーボードやATX電源上の電解コンデンサは、高温・高負荷環境下で動作することを強いられるため、圧力上昇による膨張や液漏れ、破裂などの現象が起こりやすくなる…」
などの記載がありますが、これなどは当時の海外製電源の設計レベルの課題を明示したものと言えます
*1:IEEEが採る産業スパイ説では保護技術が別保管だったの追加説があり、その他の説には日本メーカーが戦略的に水和反応の保護技術を隠して発表した、海外メーカーは保護技術を重要視しなかった、などがあります。
参考:IEEE spectrum "Leaking Capacitors Muck up Motherboards" (2003年2月1日 05:00 GMT)

 表1の比較から分かるように電解コンデンサーの市場不良についてはここで紹介できるレベルの技術的説明がされておらず、今回の記事では類似現象からの我田引水な引用が多く見受けられますので疑問が生じた時には検証が必要でしょう。

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