連載
導電性高分子アルミ電解キャパシター(1)―― 導電性ポリマーとは:中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(42)(2/3 ページ)
今回から「導電性高分子アルミ電解キャパシター」について取り上げます。今回は、導電性ポリマーとはどのようなものかなど、導電性高分子アルミ電解キャパシターの概要を説明します。
導電性高分子アルミ電解キャパシターの歴史
導電性高分子キャパシターの開発の流れを表1にまとめます。
時代 | 概要 | 発明者など | |
---|---|---|---|
1896 | 湿式アルミ電解コンデンサーの発明 | 湿式アルミ電解の原型 | Charles Pollak |
1950年代初め | 二酸化マンガン(MnO2)を用いた タンタル電解コン*の発明 |
ESRの温度安定性が良く、 σはアルミ電解コンの10倍 |
Bell研究所 |
1973 | 有機伝導体である電荷移動塩TCNQの発見 | σはMnO2の10倍 | A. Heeger F. Wudl |
1975 | 導電性ポリマーの発見(ポリアセチレン)およびドーピング法の開発('78) | PPyやPEDOTのσは金属レベル | 白川英樹、 Alan MacDiarmid他 |
1983 | 電荷移動塩TTF-TCNQを使用したキャパシター発売 | OS-CON | 三洋電機 |
1988 | 初のポリマー電解質(PPy)を用いた キャパシターの発売 |
APYCAP | 日通工 |
1991 | PPy電解質を使用したキャパシターの発売 | SP-Cap(ESRはMLCC並み) | 松下電子部品 |
1993〜1997 | 陰極部をPPyとしたSMD型タンタル電解発売 | NeoCap/POSCAP | NEC/三洋電機 |
1999 | 有機導電性ポリマーPEDT(PEDOT)の発表 | Kemet | |
2001 | PEDOTを用いたアルミ電解コンの発売 | 製造法の簡略化 | Kemet |
2000 | 導電性ポリマーの発見による ノーベル化学賞の受賞 |
白川英樹、 Alan MacDiarmid、 Alan J. Heeger |
|
2000〜 | ハイブリッド型導電性高分子キャパシターの発売(固体層に浸透できる液体電解液の開発) | 低リーク電流、自己修復機能、有限寿命 | |
*タンタル自身が熱反応しやすいことに加えて二酸化マンガン(MnO2)を用いた旧来のタンタル電解コンは高温時にMnO2が(4MnO2→2Mn2O3+O2)に分解されて酸素が供給されるために燃焼が持続しますが導電性高分子キャパシターのポリマーは酸素供給量が1/1000程度のために燃焼の可能性は大幅に低下しています。 |
図3に各種電解質の電気伝導度の比較を示しますが導電性ポリマーの電気伝導度が湿式電解液に比べて著しく向上していることが分かります。
(出典:EN.Wikipedia Polymer Capacitor 2020/04/08)
導電性ポリマーに要求される特性
電解コンデンサーに用いられる電解質(液)の最も重要な電気特性は、電気伝導度です。
湿式アルミ電解コンデンサーの稿で説明したように、電解質は陽極上に設けられた誘電体に接触して実質的な陰極を構成しますが誘電体は粗面化された陽極上に設けられています。このような背景から導電性ポリマーには電気伝導度以外にも次のような特性も要求されることになります。
- キャパシターの電解質として使用される導電性ポリマーは低分子のモノマーを化学的な重合反応によって連続的に結合して作ります。
キャパシターの静電容量には誘電体と電解質との接触面積が関係するため、誘電体の微細な凹凸に浸透し均質なポリマー層で覆う必要があります。このために重合前の低分子モノマーは微少な凹凸に浸透できる非常に小さな分子で構成されている必要があります。
- モノマーもポリマーも、そしてこれらの残渣(ざんさ)も、誘電体表面とは化学的及び機械的に安定でなければなりませんし、導電性ポリマーは、長期間、広い温度範囲で高い安定性を備えている必要があります。
加えて、引き出し電極として用いられるグラファイトや銀に対しても誘電体を保護しなければなりません。
このような背景から、ポリピロール(PPy)またはポリチオフェン(PEDOTまたはPEDT)が多く用いられています。
- また実際の製造工程では、重合速度を適度に制御する必要があります。重合速度が速すぎると微細な凹凸への良質なポリマーが得られず、重合が遅すぎると製造時間が長くなります。
【導電性塩TCNQについて】
三洋電機時代のOS-CONに用いられたTTFーTCNQ錯体は名前にポリが無いことから厳密にはポリマーではありません。TTFーTCNQ錯体を用いたOS-CONは三洋電機がパナソニックに買収された2010年以降に順次廃止されているようです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.