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SiCスイッチの特性と設計上の注意点WBGパワー半導体を使う(2/2 ページ)

年々注目度が増すワイドバンドギャップ(WBG)半導体。その中で、現在最もシェアが高いのはSiC(炭化ケイ素)だ。SiCスイッチの特性と、同素子を使う際の設計上の注意点を説明する。

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設計上の注意点

 WBGパワー半導体を使用して設計する場合、注意すべきいくつかの検討事項があります。例えばゲート駆動電圧です。これはスイッチング性能にとって重要です。Littelfuse(IXYS)のSiC-MOSFET「LSIC1MO120E0080」の使用に対し、動作値+20V/−5Vおよび最大値+22V/−6Vを推奨しています。データシートによると、ゲート閾値電圧は最低1.8Vですが、最低オン抵抗は20Vが必要です。ゲートへの印加が0Vになると素子はオフになりますが、インダクタンスと反応して意図せず素子をオン状態にしてしまう、非常に大きいdi/dtによる過渡現象を相殺するために、通常は負電圧が推奨されています。WBG素子は、ナノ秒単位でスイッチングしますが、実用的な設計では、EMIと大きいdi/dtの問題を回避するために、ゲート直列抵抗とフェライトビーズにより速度を意図的に遅くしているケースも多々あります(図3)。


図3:EMIコンプライアンスのためにスイッチング速度をゲート抵抗が制御している(SiCカスコードを表示)

 インバーターのブリッジ回路などの多くの用途では、誘導負荷によってスイッチの逆方向の電流、いわゆる「転流」が発生します。IGBT回路の場合、転流を可能にするために並列ダイオードが必要ですが、MOSFETではボディー(寄生)ダイオードが内蔵され、状況によっては外付けダイオードと置き換えることも可能です。Si-MOSFETの場合、ダイオードは比較的スピードが遅く、電圧降下が大きいため効率的ではありません。SiC-MOSFETの場合、ダイオードは、はるかに高速ですが、Siダイオードと比較して順方向電圧降下(3.3V)が比較的高くなっています。GaN素子にはボディーダイオードはありませんが、チャネルを通して逆方向に導通できるため、逆回復電荷がありません。

 高周波の用途では、寄生効果を避けるために、リードレス表面実装タイプが推奨されます。ただし、ほとんどのサプライヤーは、ヒートシンクの取り付けが容易で、IGBTやSi-MOSFETなどの旧バージョンから簡単にアップグレードできるように、リード挿入実装のTO-247パッケージの部品を取り扱っています。一般的な素子はノーマリーオフSiC-MOSFETですが、ノーマリーオンSiC-JFETも入手可能であり、UnitedSiCのような一部のサプライヤーは、SiC JFETとSi-MOSFETの組み合わせであるカスコードも取り扱っています。そうした素子は、SiCによる温度と速度のアドバンテージを持ちつつ、ゲート駆動しやすいというSi-MOSFETの利点も持ち合わせています。ボディーダイオードはありませんが、逆方向に導通し、電圧降下が低く、逆回復電荷もありません。また、高電圧動作のために「スタック」バージョンも用意されています。

データセンターでの活用などに期待

 SiCパワー半導体は、より高い電力密度と省エネの要件を求めるデータセンターをはじめ、AC-DC電源の力率補正および変換領域では多くの実績を作っています。

 SiCはモーター駆動装置とインバーターでも一般的なものとなり、EV(電気自動車)充電器での採用を広まっている他、EVや鉄道など他の領域のトラクションインバーターも、IGBTからSiCに移行しています。SiCは他の技術にも利用可能ですが、より高い周波数、広い電力範囲での優位性が評価されています(図4)。


図4:電源スイッチ市場におけるSiC 出典:Infineon Technologies

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