水晶とデバイスの間を加熱
そこで考えたのが、ダミー抵抗を追加して水晶とデバイスの間を加熱する方法だった。これで動作が改善できるかもしれない。デバイスの近くにはUSBコネクターの5V電源があるので、改造は簡単だ。手持ちの抵抗を探したら33Ωで1/4Wのサイズが大きい抵抗が多数あった。33Ωの抵抗を直列に2個接続し、ヒシチューブで絶縁して5V電源に接続して2つの水晶とASV5211の間を抵抗の熱で加温してみた。抵抗2個を実装した写真を図4に示す。
追加した抵抗で発生する電力は0.2Wずつで合わせて0.4Wだ。USBを接続して数分すると抵抗が少し暖かくなった。USBを抜いてすぐPCにつなぐと不良のPX-W3U3のUSBが認識された。このまま10分ほど放置したがUSBは認識されたままだった。この修理方法で良さそうだ。抵抗の上に絶縁で導熱の茶色テープを貼り付けた。写真を図5に示す。
図4の茶色のテープは「MagiCarrier-β」(京写製)という商品で、耐熱性があって繰り返し使用できる両面粘着シートだ。これはサンプルでもらったものだが加温と絶縁の目的には最適なテープで、加温した水晶とデバイスを保温して、周囲から絶縁できた。
修理した基板をケースに戻して再組み立てし、USBが認識できるかどうかを確認した。USBを接続したすぐは抵抗が冷えた状態だったのでPCには認識されなかった。3分ほど経過してUSBを抜いて差し直すとすぐにPCに認識された。
接続したまま10分ほど連続で確認したがPCに認識されたままの状態だった。その後はUSBを抜くと認識がなくなるが、保温されておりUSBを入れるとすぐに認識された。依頼主は『チューナーは通常、PCに差しっぱなし』と言っていたのでこの修理方法で十分だろう。1時間ほど放置してケースの底に触れたら、加温した部分が暖かくなっていた。0.4W程度の電力なので連続通電しても問題ない電力だ。
修理が完了したので依頼主に送り返すと『正常に動作した』という連絡があった。『その後10日間ほど様子を見て連続で使用したが問題なかった』という連絡も入った。もう大丈夫だろう。
この修理方法であれば電子工作に慣れていない人でもダミー抵抗とハンダごてを使えばPX-W3U3を簡単に修理できるだろう。保護テープはMagiCarrier-βがおすすめだが、温度がそこまで高くないので絶縁用のビニールテープでも十分と思われる。数年後にはテープの接着剤が固化するだろう。
今回は「低温症」と「水晶の動作不良」の弱点を持ったUSBテレビチューナーの不具合症状を対処療法だが、DC5Vで33Ω2個の直列抵抗をヒーター代わりにPX-W3U3を加温して修理した。困難な修理ではやはり『発想の転換』が重要だ。
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