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共振子(3) ―― セラミック振動子中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(59)(1/2 ページ)

これまで水晶振動子について解説してきましたが、機器の中には水晶振動子ほどの精度や安定性を求めない場合があります。今回は、水晶振動子ほどの精度、安定性を求めない箇所に使用されるセラミック振動子について解説します。

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 前回は水晶振動子の等価回路やその使い方、ならびに使用上の注意点について説明しました。特に発振裕度についてはできる限り実際の使用状態に近い状態で測定することが重要ですのでICなどを基板上に実装したまま傾けて測定する方法を紹介しました。
 一方、市販される機器の中には水晶振動(共振)子ほどの精度や安定度は要求されないが一定の処理を順序立てて行う処理専用のマイコンや、水晶以下で良いがLCR回路以上の精度、安定性が要求される箇所があります。そのような箇所に使われるのが今回説明するセラミック振動子です。

セラミック振動子

 セラミックスは図1に示すようにその使用成分によって常誘電体〜圧電体〜焦電体〜強誘電体の性質を示します。


図1:誘電体の特性関係図

 セラミック振動子とはその中の圧電セラミックス(主として圧電性に特化したチタン酸ジルコン酸鉛:PZT)の機械的共振を利用したものです。
 PZTを主体とする圧電セラミックは水晶と同じように電圧を加えると圧電効果を示し、水晶と同様に機械的変形に基づく固有の周波数において共振します。その共振の様子を表1に示します。表1に示された振動モードは水晶振動子と同じく多様です。この共振周波数は振動モードおよびセラミック基材の寸法(長さ、厚み)により決ります。

 クリスタルマイクロフォンやレコードプレーヤーのクリスタルピックアップ、鉱石ラジオのクリスタルイヤホンの多くは酒石酸ナトリウムカリウムを主成分とする強誘電体のロッシェル塩の単結晶です。
 圧電効果や逆圧電効果を持ちますが水に溶けますのでセラミックスとは別物です。



表1:セラミック振動子の発振モードと周波数領域 出所:村田製作所 Murata セラミック発振子(セラロック) P60-24.pdf 2021.3.1

温度安定性

 セラミック振動子は水晶振動子に対して1桁程度安定度は悪いですがCR発振回路やLC回路に対しては1〜2桁程度良好です。
 発振メカニズムが水晶と同じため注意点も同様の注意が必要になります。

セラミック振動子の応用回路

 セラミック振動子は廉価版の振動子として組み込み用マイクロコンピュータのクロック生成などに使用されることが多々あります(発振モジュールとしての利用はないようです)。
 水晶振動子の回路と同様の回路で使われますが、この場合はマイコンメーカー指定の振動子と定数を使うことが前提になります。したがって使用にあたっては水晶振動子の注意事項や高精度振動子の注意事項を遵守する必要があります。

SAWフィルター

 また圧電材料は発振回路以外にもSAW*1フィルターとして用いられることも多く、スマートフォンなど高周波機器のフィルターとして数多く用いられています。


図2:SAWフィルターのイメージ図 出所:Wikipedia Interdigital transducer

 圧電効果を持つ基板*2の表面にアルミなどの金属薄膜で特定の音波(弾性表面波)の波長に共振した櫛(くし)型、あるいはスダレ状電極のパターンを形成し、圧電効果を使ってSAWを励振、受信することで電気的な入出力が行えます。SAWを励振することで発生した弾性波が電極パターンを伝わる間に電極パターンの波長に共振した特定の周期の信号だけを受信端から取り出します。このようにして800MHzから2.5GHzの中心周波数f0で急峻な減衰特性を持つフィルターを構成することができます。

 なお、電極パターン間に異物が接触すると表面弾性波の伝搬速度が変化することを利用した気体、液体センサー、圧電体の逆圧電効果を利用した歪み、応力センサーなどにもSAW応用製品があります。

*1)SAW:Surface Acoustic Waveの略で弾性表面波と訳されます。
    弾性表面波の伝搬速度は数km/sと遅く、光速に対して10万分の1程度ですから波長も同様に短くなり
    電極ピッチを短くできます。
*2)LiTaO3(タンタル酸リチウム)あるいはLiNbO3(ニオブ酸リチウム)、水晶など。

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