多重パルス損失による温度計算
スイッチング電源に使用するMOSFETのチャネル温度のように損失の変動が素子の温度上昇に影響を与える場合には図1のようにパルス損失の重ね合わせとして計算します。
図1においてP1はターンオン損失、P2はRon損失、P3はターンオフ損失、τはFETのオン期間、Tは1周期です。
- 図1(a)の損失波形から図1(b)の平均損失P4、P5を求めます。
図1(b)においてP4は1周期Tの平均損失、P5はFETのオン期間τでの平均損失です。 - 図1(c)に示すように重ね合わせの計算を展開します。
①上記の通り1周期の平均損失P4が基礎的な定常温度上昇になります。
ΔT1=P4×Rth(J-C)
②オン期間の損失変動の影響を計算するため1サイクル目のオンと同時に
平均損失P5が発生するとします。具体的には(P5−P4)の損失をP4に
上乗せします。
ΔT2=(P5−P4)×Rth(T+τ)
③オン期間τが終了すると損失は0になるためーP5の損失を加えます。
ΔT3=ーP5×Rth(T)
④最終サイクルの温度上昇を計算するために上記①〜③の温度上昇に加えて、
P1、(P2−P1)、(P3−P2)によるオン期間τ終了時の温度上昇を加算します。
④-1 ΔT4=P1×Rth(τ) (P1の損失がτの間発生)
④-2 ΔT5=(P2−P1)×Rth(t2+t3)
[(P1−P2)の損失が(t2+t3)の期間差し引かれます]
④-3 ΔT6=(P3−P2)×Rth(t3)
[(P3−P2)損失がt3の期間重畳されます]
上記のP5を用いた簡易温度計算の精度を図2に示します。図2の損失波形はスイッチング電源の実際の損失波形をモデル化してあり、計算条件は以下の通りです。
- 熱抵抗 :Rth(t)=3.679×√(t)
- ターンオン期間:t1=100ns P1=100W
- オン損失 :t2=3.5μs P2=1.43W
- ターンオフ期間:t3=50ns P3=400W
- τ :3.65μs
- 1周期 :T=10μs
これらの条件から各損失の1周期(10μs)の平均は次のようになります。
ターンオン損失平均Pr=0.1/10×100 =1W
オン損失平均 Pon=3.5/10×1.43 =0.5W
ターンオフ損失平均 Pf=0.05/10×400 =2W
∴P4=3.5W (1周期平均損失)
このP4は1周期の平均損失ですから定常的な温度上昇[P4×Rth(J-C)]に関係し、過渡的な変動には寄与しません。
またターンオン期間τ(3.65μs)の平均損失P5は次のようになります。
P5=(100×0.1+1.43×3.5+400×0.05)/3.65=9.59W
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