電磁気学入門(8)ロイヤープッシュプル自励発振トランスとは:DC-DCコンバーター活用講座(51)(1/3 ページ)
電磁気学入門講座。今回から「トランス概論」に入ります。まずはロイヤープッシュプル自励発振トランスの概要の説明や、その設計に関する考察を紹介します。
トランス概論
インダクターに関して、ここまで説明したことは、DCとACの両方の磁界に適用できます。しかしながら、AC磁界は、同じ磁界を遮る導体や巻き線に流れる電流を誘導できるという有用性をもっています。別の言い方をすれば、AC磁界はトランス構築に利用できるということです。
「真」のトランスは、エネルギーを蓄積しません。一次側巻き線の全てのエネルギーは、瞬時に出力に転送されます。プッシュプルやフォワードコンバーターは、その最も一般的な例です。漏れインダクタンス、相互インダクタンス(磁化インダクタンス)によるトランスへのエネルギーの蓄積は、損失と見なされます。他方、フライバック設計では、スイッチングサイクルの後半に、次に出力に転送するエネルギーを故意にギャップ付きコアに蓄積します。よって、そのコアは、実際には「真」のトランスと言うより、2つのインダクターの組み合わせと言えます。
「『真』のトランス」と「インダクターを組み合わせたトランス」の違いは、杓子定規な細かいあら探しではありません。損失と損失メカニズムは異なっており、異なった動作条件に依存します。従って、それらを理解することは、最適なトランスを設計するために極めて重要です。
ロイヤープッシュプル自励発振トランス
ロイヤープッシュプルトランスは、「真のトランス」設計で、最も古い電源トポロジーの一つです。バイポーラトランジスタが発明されてから10年弱の1954年に、特許が認められています。簡単なトポロジーにもかかわらず、動作は複雑です。
とりわけ、コアは回路の発振のために飽和しなければならず、これは、可能な限りコアの飽和を避けるというパワー磁気設計の重要なルールを破るものです。
TR1が導通すると起こる飽和について考えてみます。一次側巻き線T1aを通る電流が増加し、トランスの作用(図1の青矢印)により、逆巻きの帰還巻き線T1afに正電圧が発生します。
これは、TR1のベースを強力ドライブします(正帰還)。同時に、同様にトランスの作用(図1の赤矢印)により、同極性の帰還巻き線T1bfは、TR2をオフ状態に維持するための負電圧を生成します。
この状態はコアが飽和するまで継続します。そして、同時にいくつかのことが起こります。TR1に電流スパイク(一次側DCRによってのみ制限される)が生じ、一次側と二次側巻き線間の磁気結合は消失し(もはやコアはインダクターの振る舞いはしない)、TR1のドライブが消失、それゆえにT1apの励起電圧が消失します。
突然の一次巻き線T1apの電圧の消失は、帰還巻き線に空気結合(または漏れインダクタンス結合)し、直ちに極性を反転します。TR1のオフによって、コアは飽和から回復しますが、事態は逆転します。TR2はT1bf(図2の青矢印)からの正帰還により導通し、TR1は帰還巻き線T1aが生成する負電圧によりオフに維持されます。この状態は、コアが負飽和になりサイクルが再び逆転するまで安定に維持されます。
コアの磁界は、図3のBH線図で表すことができます。コアは、サイクルのE-F-EおよびB-A-Bの部分で飽和しています。この曲線は、コアが完全に飽和したか、飽点を遷移しているが非常にはっきりしています。
オシロスコープのトレース(図4)は、スイッチングがいかに高速であるかを示しています。チャネル1(黄色トレース)はTR1のVCE、チャネル2(青色トレース)はTR1のVBE、チャネル3(緑色トレース)はTR1のICEです。同じ波形ですが、位相が逆のTR2の波形と交わっています。この例の発振周波数は約85kHz(12マイクロ秒(μs)デューティサイクル)です。正帰還が、低コストの汎用トランジスタのスイッチング速度を、100ナノ秒(ns)に加速しています。
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